胡散臭い身の上には、当然だが。掛けられる言葉は棘まみれだった。






























「 3) 蹴られても抵抗するな。 」






























入城に到る道中には、噺に恒例の如き反心の伏兵がいて、
時人が乗る御籠を目掛けた攻撃があった。しかも五度に亘っての。

いくら信憑性が眉唾にしても多少憚るのではないか、と思いたい所であったが。
晩年の城主の乱心ぶりを目の当たりにすれば、家臣とて賢くなるというもの。


生まれ自体の信用云々の前に、おこがましくも
選別をしているのだ。次期城主として、善しか悪しを。


時人は強襲しかけてきた連中を悉く血祭りに上げて尚も
悠々と、城への道を進んで行った。それこそ覇者か為政者の如く。

その戦う姿は見れば分かるのだが、一兵卒であれ情け容赦なく斬り殺し、
護送個隊も信用がなかった故に敵のほとんどを自分で斬って捨てて、
物や人も背とせずに。時人は、何処までも孤立の光景を描く闘いをした。

それ故、間が保てず時人の巻き添え食って攻撃を受ける護送個隊に関しては、
御籠を担ぐ役目のだけを優先して守ってやった。それ以外は、無情に見捨てて。
時人とて力はあったが、全てに手助けをしてやる程、未だ城主としての恩恵に
被れていなかったから主従の義務を遵守する心積もりは、一切無かった。

故に、6個隊での編成だったという護送衆の大半は無惨に息絶えて。
結局は時人自身が守った運び役と、使者たる青年――アキラが率いる
個隊だけが完全であっただけで、他の個隊は半数負傷か壊滅か、全滅だった。


事実だけに、アキラを見る時人の顔が少し変わる。
てっきり身分だけの男だと思っていたが、違うらしい。

数度を超える奇襲にも一糸乱れず焦らずに対処仕切った青年は、
時人に穴が開くほど見られているのを知ってか知らずか淡々としたまま
『御烙印』が乗り込む御籠に異物が無いかを確認し、執拗に点検していた。
やがて納得がいったのか、籠口の側に跪き頭を垂れる。揺れる赤茶色の前髪が
奇妙に時人の目に映る。まるで、声掛けるのを待ち構えるよう、不気味に。



「少し意外だったよ。君って、腕が良いんじゃない?」



恐れ入ります、とだけ。言葉短く、声低く、頭も上げずにアキラは答えた。
その素っ気無い反応に却って面白みを感じて、時人は挑発的に見据えてやる。



「折角褒めて、あげたンだけどな? 何?君って実は陰険な方なの?」

「お褒め頂いたのは、恐悦至極に存じます。が、これ以上のお話は無用かと」



言外に、まだ奇襲の兵がいるやもしれぬと匂わせて。アキラは籠入りを
視線を動かす事無く、言葉を以上に発する事無く、時人へ行動を促す。

しかし時人には、精錬で潔白たるアキラの対応に次第不信感を抱く。
純心に暴いてやりたいと、思った。偽りか如何かを質す意味を持って。
唐突。時人は、アキラの身体の側面へ、鋭い角度と速さで蹴りを入れた。
鈍いとも痛みとも言い表せない音がして、アキラの身体が僅かに傾く。
尽力した臣に対し、掛けた労りが暴虐であるかと。俄か憤り立ったのは
言わずもがな後に控え、事を見守っていたアキラの精鋭なる個隊で。
どよめく気配に気付いて、時人はしたりと笑みを深ませた。

しかし、アキラだけは態度を翻さずに、静かに従える姿勢のままで。
大凡時人は期待した様な、彼の部下が期待する様な事は起こさなかった。



「どうして、抵抗しないのさ。まさかとは思うけど、君は好きな方なの?」



こういうのが・・・・との接続語が言い切れぬ間に。時人はまた蹴りを入れる。



「抵抗しないの? 普通に痛いと、思うけど? それとも知られたくないから??」

「・・・・・仰る意味が、解りかねますが。私に何か、至らぬ事がありましたか?」

「あんまり君が大人しいからさ!まるで虎視眈々狙っているみたく見えて、ね?」



最後の方は態とおどけて見せたが、時人の緑耀の瞳は言葉以上に鋭利に煌めいていた。
つい先ほど迄には、能力を高く買っていた。だが、途端に涌いた疑心は鮮明だった。
それは考えなくとも容易いことだった、端から信用していなかった故だ。



「他の方がどうであれ、私は主に逆らう真似はいたしませんよ?」



くつくつと笑うアキラの顔が、とても嫌味なモノにしか見えず。
時人は口端を歪め顔を引き攣らせる。その素直な反応にアキラの口角が
より笑みに近い形に上がる。しかしそれ以上に態度に表すことはなかった。



「疑うと言うのなら、反逆を思わせぬ様にして頂ければ、私は従っていますが?」

「面白い言い方を、するんじゃないのかい!? 君はあくまでボクの家臣だろう。」


「ですから、私を臣にされていれば宜しいでしょう?そうであれば抵抗しませんよ。」



随分、慇懃に見せて大仰な言い方じゃないか、と。言い詰めた処で、
時人は、この青年が、己の趣旨を覆す事はないのだろうと思い悟った。
全く面白いじゃないか。計算に入れなかった、計画なしの知恵比べに驚喜する。



「そういや君の名前をきちんと聞いていなかったようだと、思うんだけど?」






























青い炎のようにゆらめいた この嫉妬(かんじょう)にただとり憑かれ





























「アキラ、と申します。――――・・・・母の名前が、そのままです。」



「ふぅん? ま、呼ぶことは無いと思うけどさ。しっかり仕えてくれよ。」



一言だけ。畏まりました、と答えて。
アキラは其れから先には城に着くまで
必要事項も端的にしか口を利かなかった。


思えばアレが、最初に彼の怒りに触れた時だと思う。



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