「今此処で貴女の脚腱を、修復が出来ないよう深く切ってやりたいですよ。」






































誰かのものになるくらいならば 君をこの手で・・・・ ちぎれてしまうまで






















そう言って、ボクの足甲に恭しく口付けて。君は一体なにを望んでいるのさ。






























肩を抱かれて連れて行かれたのは、この城で最高層にある天守閣。
戦をしていない今に用がある場所じゃない。なのに君は其処に引き立てていく。

怠惰が所以じゃない全身の重みは、今しがた為れた事の残骸。
傷付いたよりは刻み込まれた痕跡に苛まれての移動は、容易くなくて。
身体の重心のほとんどを、引き摺っている張本人に委ねた状態でも苦痛を伴う。
だけど愚痴溢すボクの叱咤もしないで、君は黙って歩を進める。どこかしら嬉々として。


そうして手元の灯心だけに照らされていた闇色の内部を中程にまで進んで
始めから設置されていただろう燭台へと、引き摺ってるとは逆の手にある手燭の火を
融けた蝋と共に滴り落し灯す。少しだけ手元から離れただけなのに、それだけで
内部が広く仄明るく照らし映されて。暗色に慣れた視界も同時に拓ける。


正直に言えば、見たいと思っていなかった。

拓けた視界の中、ボクが真っ先に見たのは君の顔。


それから、君が暗闇でも見詰めて離さなかった空間の先を
君が嬉しげに眺める視線を辿りながら、ボクも視界に収めていく。



まだ点々と闇色を纏わせて、灯色と混ざりながらも絶対的な冷気を湛える
大凡戦時にしか使用されないだろう天守閣に、備え付けられた『座敷牢』を。



施錠無く大口を開けたままの其処に、当然先客の姿は無い。
紛れもなく此の場では、誰の為に用意されているモノなのか、なんて。
問いかけるだけ愚問ってもんだ。ボクの肩に掛かる指の力が深く篭りだす。






























「 5) そして、言い訳をしろ。 」






























まさか、こんな場所に――――、『   』れる訳ないよね?


視線をその恐ろしいモノから外して、ボクは訴えた。
だって此処は、平治には使われない場所。其処は腫れ物が、
押し込められて閉められて、動けなくされて目を背けられる場所。

ボクの頭の中は、混乱と恐怖で固められた。
耳鳴りはするし。背筋は凍えて、両足裏は汗ばむ。
感情と理性とに忠実なボクの身体の表面部分と頭の中は、
状況すら判断が出来なくなって、決して聡い働きをしてない。

それでも。

この非常時に容量超えしてしまった頭脳に全く反して、
胎内に熱く残された快楽が教えてくるのは、興奮と好奇の衝動。
どう普通考えて、比べたって。この事態に思う感情じゃない。異常。




「い、いやあだあああっ」




噴火した激情は、存在感を隠蔽される事への拒絶と
矜持を砕かれる事への反発によるものであって。体を拓かれ、
目覚めてしまったボクの淫乱な部分に少しでも傾きかけた屈辱に
負けてしまいそうになったからじゃない。・・・・負けたくない、そんな部分に。

そうして、抗おうとしているのに。相変わらずの表面は、
恐怖に竦んでちっとも役に立っていない。ボク自身の身体なのに
中も外も、あべこべで。惑乱は、本位と本心の意義を消し飛ばせた。

結局、ボクが事態を望んでいるかの景色が出来上がっていく。



「入りたくないっ、…入れないで!入れないでェ!」



反発しているのは口先だけで、胸中では妥協している。
こうなってしまったのは、仕方の無い事で。そうされるのを
嫌がるどころか、湧き上がる感情は先刻の悦楽を待ち求めていた。



「安心してください、此処に入れるのは殺す為ではありませんから。」



そう言って、君がボクに与えるのは触れるだけの口付け。
途端に、この状況では在り得ないモノが、中に堕ちてきた。


瞬間、――――格子の扉は閉められて、金属の錠が掛けられる。


拘束された身体とは対照的に、頭の中はとても想像逞しくなって、
それ以後、ボクは金属の擦れる此の音に淫乱な反応を示すようになる。




























































そして、運命の2年と12ヶ月目を迎えた。



























































「一体、今頃になって何を…している、のですかね。」



予てから争乱は想定の範囲内の事でした。

平常戦時が当然な時世で、互いの領土は隣り合わせ。
国力も然程出なくて、比べてみれば己より劣等であって
内政も決して安定していなく隙だらけ。主従の間は深く陥没。
例えば乗り込んで領主を服従させた所で、従う家臣の器量と数と
忠誠の意思が不透明で。下克上が謳歌する時勢では、従わせる方とて
軽症では済まされない事態くらい、誰しもが容易く想像できることでしょう。

まして、群集が望む権力へのきざはしを進むのに、眼前の障害同然に、
此れまで一度たりとも和平交流も無いままに、鎮座しているのですから。
抹消対象として定められて、侵攻されるのに驚く必要はありません。

ただ。此れまでにずっと動向を伺っては、神経質なくらい意識をして
備えも対応も整えてきて。怠たり、侮るような事はしてこなかった筈なのに。


仕掛けられて気付いて、総てが後手にまわっての開戦。
自軍の攻撃に全く手が行き届かなく、行動は守備に止まるばかり。
その守備も自領の、しかも最終戦線で。本領の真ん中の本城の石垣と
堀とを挟んでの追い込まれた形での、起死回生があっても追いつかない
勝利や敗北を彼方にやって、眼前に敷かれた死への道を疾走している状況。

私は側には誰もいないというのに、無意味に声を立てて笑っていた。
別段、他者に訊きとめて貰いたい訳ではありません。独りでいるのは
とうに自覚していましたし、人と今は居たいとは思わない気分ですしね。

開戦後、会心の攻めも出来なくて後退ばかり強いられる戦況。
旗色の悪さは誰の目にも明らかで、進退はとうに極まっている。

落城を覚るや賢臣は、顔を見せなくなり所在を晦ませ。制裁される。
落命の刻限が切迫すれば愚臣は悲嘆に暮れ喚くだけ。その上、働かない。
どいつも役立たずの凡滓ばかりで苛々だけが募っていく日々が絶えていません。
予測していなかった訳ではないのに、備えも何も合切が機能せず終わり
持ち腐れて役割の終幕を迎えた資料や情報の全てに糾弾されている。



「――――悔しい、…っ!」



言うが先か、僅かに後か。そんな間隔で城内に轟音が響く。
俄かに騒然となる遠い周囲。複数の足音が統率無く聴こえる。

外堀を越えて、城壁を破って侵入してきた敵が城兵を斬り殺す
そんな想定を脳内にたてて。真っ先に浮かんだのは、天守閣に閉じ込めた
殺すという選択肢を棄て、一生を飼い殺すつもりであった1人の存在。








駆け出したのは、反射的で。心境など無心になっていました。
後も見ないで。状況も判断しないで。あの座敷牢に向う。





だけど、離れられないだけにやるせない。君以上の罪を犯していた、――――7つの言葉。





限り無く惨劇に近い悲劇のシナリオは、最早避ける事など出来ない。



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