誰かのものになるくらいならば この手で・・・・ ちぎれてしまうまで


































































「まだ生きてたんだ、とか思ってるんだろ。」


































































「とても嫌味に聞こえますよ?その様な物言いは、…」



無事な貴女の姿にを確認して、深く安堵を覚えていたと同時に、
意識していたより私が、貴女への憎悪を抱いていないのを再認する。

誑かされた、という訳ではない。それは無い。
何より彼女は誰かに対して、媚びを売る性格ではない。
だとしたら、もっと前に時人の身体を切り刻んでいたかもしれません。
私自身が父母との関係を知ってから、男女関係に頑なにしていましたし・・・・。

だとするのなら、今日まで貴女が生き残っていた意味を考えて頂きたい所です。

まぁ、そう思うのは少々傲慢でしょうから、せめてもう少しくらいは
思い上がって、おこがましく。嘲笑って、馬鹿にして貰っても構いませんよ。

顧みれば今日まで、此処まで長く心身が疲弊したのはありませんでしたね。
この瞬間まで自覚していなかったのに、本当に恐れを抱きますよ。精神は崖淵、
事態は切迫、只管に焦燥に煽られていて。なのに自分は無敵ではないのが歯がゆい。
そんな叶わない事を実行し続けてきた訳ですから、徒労やら何やらで疲れていて、
表情も軋んだように上手く作れなくて、顔が奇妙に歪んでいるのが自分で分かります。



「ねぇ? なんて顔をしているのさ」



・・・・そう云う貴女こそ。受け入れた様な、諦めてしまった顔をして。
全く忌々しい事、この上ないですよ。貴女は、己の顔が見えていないのでしょう?
どんなに縋る様な、哀愁にひたり浸かった泣きそうな顔をしているのか。・・・・。

私に対して、此れ迄なら傲慢で横柄であった貴女の態度からは
全く信じられませんね。こんな従順で畏まった姿を実際に見ると。


非常に、不愉快に思いますよ。


そもそも私とて、自身の尊厳に無頓着な性分ではありません。
ですから余計に許せないのですよ。私が落ちた有り態やら惨状を
象徴するような姿を貴女が晒さすことなんて・・・・・――――。

この私が、赦せる筈がないでしょうに。

況して、この結末は貴女の権限を私以外の何者かに渡しかねない、
誰かの私有にさせかねないのですからね。おおよそ、取る選択肢は
決まっているというものでしょう?私は貴女を失くしたい訳ではですから。














限りなく惨劇に近い悲劇は最悪の結末 苦しみから逃げたい僕が 7)を遂行した














「大人しくボクを、アイツらに差し出せば良いじゃないか」






「その為に。その為だけに。ボクを捕らえて、囲って、生かしていたんだろう?」






「上手い具合に、君のお父さんの顔とボクの顔が、良く似ていたから。
 例え他人でも空似でも、首実検にかけちゃえばさ。わかんないと思うよ。」






「そしたら君が、生き永られる」













・・・・呆れました。ここまで解っていないと云うのなら。













「それなら、いっそ此処で、死んでみますか?時人、…」



今の、此所で。私の中で。私の腕で囲った内で。
独り言だけで完結して、時人の細首に手を掛けた。

私自身の五指で探り当てた時人の気道は、潰されようとしているのに
事態には関係なく保存原理に従って、当然の命脈を健気に繋ぎ続けている。
この気道を塞げば酸欠を強いられた脳から死ぬか、圧力に脆い首骨が砕けて
窒息するか。どちらにしても、事切れるまでは生き苦しむのですが。


それでもまだ、私の手の中で居てくださるのなら。




「―――――・・・・時人。」




掠れたような声色になったのは、遣る瀬無いからですかね?フフフ・・・。












































「死ぬ時くらいは共に、というのも悪くはありま――――――」















































  ・・・・ドスッ、



「折角、此処まで来たってのに、有るのは死体と餓鬼だけか。」



紅蓮の焔を照明に、突如と現われた闖入者の声がする。
覚醒したてのボクの意識じゃ輪郭さえ明確に捉えられなくて
陽炎か幽霊のように目に映る。尤もボク自身が、やばいんだけど。

気付いたらまだ『座敷牢』に居て、1人で床に転がっていた。
目玉だけ動かすとヤツの手が見える。ボクを絞めていた指もある。
夢幻を彷徨っているような意識のままで、どうにか身体を起こした。
姿勢が変われば見える範囲も景色も違うのは分かるけど、ヤツは同じだった。

格子越しに腕を伸ばして、身体を凭れ掛けさせた体勢。指は曲がったまま、
髪は炎が上がれば必然的に起こる風に煽られて揺れているけど、口も肩も鼻も
冷たくてだけど大きくて、ボクの爪痕ばかりある背中も動いていなかった。


曲がったままのヤツの指にボクの指を絡ませて、ボクより大きな体格の
身体を格子越しに抱き込んでみようと試みてみる。それは思ったより難しくて
なかなかボクの傍にまで来てくれない。反応がないのが急に嫌になって
段々と触りたくないと思えてきたけれど、それでも触れたくて抱き締めた。



「 アキラ 」



初めて、君に名前で呼びかける。一層に背中から抱き込んで。
相変わらずの格子越し。『座敷牢』に阻まれても、構わずにした。


君の背中一面には、矢鋼を先端に持った白羽が打ち込まれていた。


そして君は、ボクよりも先に冷たくなって、死んでいた。






  ・・・・カチャリ・・・・、



鋭く赤い眼光、戦国時世の寵児。鬼眼の狂が其処に居た。



「いいさ、この際は城主さえ残って居りゃな。・・・・連れて行け。」



今の、今まで。アキラ以外の存在を受け入れて来なかった錠は開かれ
何本かの無粋で下賤な奴等の手で、ボクの身体は何年かぶりに外に出された。
格子越しにしか繋がっていなかったアキラとは、其処で引き離され
ボクが『座敷牢』の入り口を潜って外に出てもアキラは格子に凭れてた。
再び両腕を掴まれて、荒縄で拘束されて。天守閣に唯一ある入り口に
連れて行かれるっていうのに、アキラは格子に凭れ掛かったままだった。

いつの間にか、黒煙を蔦って城を焼く焔が瓦解と共に大きく動く。
まだ小規模な爆発だったのに、アキラはまともに喰らって身体を格子に
叩きつけられた。その時、全身の関節が有り得ない方向に曲がった様にみえた。
否、曲がっていたのだ。生きているのなら、無意識だろうと、庇う向きに。



「何して、いるのさ?・・・・早くボクを、助けに来いよ。アキラ!」

「無駄じゃねぇか?あれはもう充分な死体だからな。動きはしない。」



真っ赤な目と焔ばかりが鮮やかな光景の中、ボクはやっと理解をした。






「抱いてよ!抱き締めてよ!ボクを愛して殺してよ!!アキラ!!」






城が落ちた、その日。
ボクは天涯孤独になった。






































「 6) 次は、いつもの様に甘えてみて 」



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