幽霊ラヂオ
それからまた、一週間ほど経過してとうとうリナの言うところの成仏予定日の四十九日まで一週間をきっていた。
そういえば、俺はまったくリナのことを知らない。
セーラー服は恐らくスレイヤーズ学園のものだろう。夜中に俺んとこのアパートの前を通れるぐらいに家は近所であって、このあたりでセーラー服はスレイヤーズ学園ぐらいしかなかったし、その形も俺が以前通っていたころとなんら変わりがなかったから。
後輩の伝手などを借りればもしかしたら、リナのことを調べる事が出来るかも知れないが俺がそれを自発的におこなうのはかなり怪しいだろう。第一、リナという名前しか知らずフルネームも分からないし、四十九日という事は今の1〜3学年のいずれかに属しているのだろうけれど、決定的な年齢を知っている訳でもない。
情報が不足しているのだ。
「なぁに考えてんのよ。皺、寄ってるわよ?」
考え事をしていたら、リナに眉間を触る仕草をされた。
もちろん、幽霊なのだからそれを触れる事は出来ないのだけれど、力をこめたのかふにゃという冷ための柔らかな弾力が皮膚を通して感じられた。
それは、まるで生きているものの体温でもなかった。――それがやけに悲しくてもやもやして、嫌な気分になる。
「なぁ、リナ」
「ん、なぁに?」
リナは俺の瞳をじぃっと見ていた。
逸らされることのない真っ直ぐな目は誰よりも生きているように眩く生命の力を感じるのに。もう、死んでいるのだ。
「…墓の場所、教えてくれないか?」
「どうして?」
リナはごく普通に疑問を感じたと言わんばかりのまったく変わらない声音で俺に問い返した。
その言葉は少し、俺の中の感情とかみ合わなかった。例え、幽霊になった後に出会ったとしても俺とリナは他愛もない話をしたり、助けてもらったりして仲良くしてきたのだ。そんな人の墓参りに行きたいと思うのはごく自然の事だろう?
しかし、リナの口ぶりからではそうではないようだ。
「あたしとガウリィはあたしが幽霊になってから出会ったんじゃない?なのに、生前から知り合ってましたーなんて言って墓参りするのってなんだか奇妙じゃない?」
「でも、俺は…!」
強い口調で言ったものの、実際のところ何を言いたかったのか俺は先の言葉を用意しておらず、感情のまま音を出すにはすっと途中で冷静になってしまい、宙ぶらりんになった言葉だけが余韻として残った。
俺はリナに対して何を言いたかったんだろう?
声を荒げるほどの何か――。
でも、今はそれを探すのではなく言葉を続けるのが先決だと思った。
だから、俺の中にある言葉でどれが適切だろうか、と考えながら音を発した。
「俺は今、リナがとても大切だと思う。だから、お前さんが居なくなっておしまい、なだけにしたくない。だから――」
「…確かに、お墓を教える事であたしという人はいたことになると思う。ガウリィの中でもちゃんと印象に残るんじゃない?でも――」
リナは言葉を区切って、思案するように口に手を当てた。
俺は、先の言葉だけをじぃっと待って、身動きせずにただ考えているリナを見た。
どこか悲しげに眉間に皺を寄せたリナはじぃっと俺の顔を見て言う。
「それは、ただ過去に縛られる事にならない?過ぎ去った思い出の一つとしてガウリィの中で処理するのであれば、あたしのお墓なんて必要ないでしょ?生前はまったく会っていないんだし、献花をあげる必要なんてどこにもないと思う。あたしがここに居るのは所詮、幽霊の感傷でしかないんだから」
「そんなことないだろ!幽霊になってから会ったって、墓参りをしてあの世での暮らしを願うことは親しかったのだから、当たり前の事だ」
強く言うと、リナは何故だか泣き笑うような奇妙な表情をしていた。
その顔を見るとずきずきと胸が痛んでしょうがない。
俺の発言の何処に問題があったのか分からなかったけれど、もしかしたらリナは俺の前では死んでいることや思い出にしかならない事を考えたくなかったのかもしれない。
だったら、俺の言っている事は――リナにとってはきっと残酷な事だろう。
俺は、それ以上強く墓の場所を教えて欲しいとはいえなかった。
「――あのね」
「いいや。まぁ、リナが嫌だってのを無理やり聞き出そうとは思わないから安心してくれ。あ、それよりさリナの好きだったものでも教えてくれよ」
話を逸らすように言うと、リナは安心したような悲しげな奇妙な表情をした。
>>20051207
いい大人なので気遣いは欠かせません。
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