あたしはガウリィ=ガブリエフという人格を理解することが出来ない。
 ――だから、彼が愛しくて仕方ないのだ。




      血色そして焔色




 変わらずの目的もない放浪の旅を続けていたあたし達は、久しぶりに合成獣キメラの根暗な魔剣士と聖王国の超合金姫に会い、彼らの目的の手助けをするため同行していた。彼らへの友情とそれに勝る好奇心につられ。
 愉快に様々な出来事に首を突っ込みながらも彼らの旅の目的を果たすための明確なヒントを得ることは出来ず、とある国の首都(今この状況にあるあたしにとっては非常に気になっていた場所である)の手前まで来た。
 けれども、それと同時に起こるある変化があたしにとっては不可思議で……心配だった。
 ゆえにそのことを話に出そう出そうと思いながら、何故だか思い切りの良いはずのあたしはタイミングをつかめぬまま、今日も宿屋に付属している食堂に集まり四人で食事を取っていた。
 いつもと同じく、まるで嵐のような食事が進む。
 十人前ぐらいを完食したところで、競い合いながら食べていたあたしの旅の連れはそのペースを止めた。
 その間を待っていたのか否かあたしの心配していたことを切り出したのは、あたしではなかった。

「なんだかガウリィさん、このところ顔色悪くありません?」

 超合金姫ことアメリア=ウィル=テスラ=セイルーンは心配そうに眉を顰め、紺色の濡れたような瞳をあたしの連れ――ガウリィ=ガブリエフへ向けた。
 なんと答えるのだろうかと目の前に座っていた彼の顔を見てみると、すっとぼけたようなきょとんとした顔でアメリアを見ていた。

「そうかぁ? 普通だと思ってたんだけどなぁ」

 気にもしていなかったという言葉が、体調管理をきちんとして自分の状態を過大も過小もなく把握しているあたしには理解できない。
 自分のことなのだから、分からないなんてないと思うのだ。

「アンタ、とうとう自分のことすらもわかんなくなっちゃったの? くらげくらげだと思っていたけれど、くらげ以下のゼリーね!」

 はぁ、と呆れたように溜息をつくあたしを、まぁそこまで言ってやんなと宥めたのは根暗な魔剣士ことゼルガディス=グレイワーズだった。

「自分のことであっても気がつかないことだってあるだろう。でだ、旦那……もしかして、この先にあるエルメキア帝国の首都になにかあるのか?」

 諌めフォローしておきながら確信へずばり切り込む言葉に、アンタが同じ立場だったらフォローされてもそんな核心に触れられちゃ恨むでしょうが、とあたしの戯言のような辛辣な言葉よりも酷い様にあきれ返った。
 それはアメリアも思ったのか、ゼルガディスさん! と甲高い声で諌めようとしている。が、発せられた言葉は撤回できない。
 ゼルの言葉を聞いたガウリィは、仕方ないなと言いたげに苦笑した。

「まぁな。だから、あそこには行きたくないんだ」

 でも、ゼルの体を元に戻す方法を探さなければいけないのを邪魔なんて出来ないだろ? などと、彼は大人ぶった台詞を吐いた。

「だから、この村で待っていちゃ悪いか? 俺がいなくとも調べ物するのに支障はないだろ?」

 確かに支障はない。
 鶏は三歩で覚えたことを忘れるというけれど、目の前のくらげは言葉が吐き終えたその瞬間にはその言葉を忘れるくらい脳髄に栄養がいっておらず、運動神経と野生的な反射神経と勘でこの世を渡り歩いてきたというある意味逸材なのだから。
 そんな人物に、魔族にすら難しいと言われる合成獣から人間に戻る方法を探すための深い知識と情報収集能力という、神がガウリィには一切与えなかった能力を使えといっても無理な話なのだ。
 けれど、そんな効率論を除いてもあたしは少しだけ心が震えた。
 でも、その心の震えを口に出して言えるほどあたしは素直でなかったし、あたしとガウリィの関係は甘くもなかった。
 だから、いつも通りおちゃらけた調子で声を発した。

「たっしかに、アンタがいなくったって問題ないけどね。で・も! すっとぼけたアンタのことだからあたし達のことすぐに忘れてふらーっとどっかに行ったりして、あたしがわざわざ探してあげた斬妖剣ブラスト・ソードが無くなっちゃうかもしれないじゃない!」

 あくまで、ガウリィだからこそただであげた伝説の剣を主体において目を吊り上げると、ガウリィはしかしいつもの朗らかな表情で笑っておらず、剣を敵に向けるような真剣な表情であたしの目を見た。

「リナのことはどんなことがあっても、忘れない」

 忘れるわけがない、と彼は呟いた。
 いつもの人の心を傷つけない透明な声とは違い、まるで太陽の光のように眩しく目を開いたら焦げてしまいそうなほど強い声で。
 きゃあ、などとアメリアは何か期待したような声を上げていたが、あたしはまるでアメリアはおろか全ての風景が排除されたかのように、ただガウリィの透明を含んだ蒼い目を見ていた。

 そうして次の日、あたし達はガウリィを置いてエルメキア帝国の首都へと向かった。



      >>20070914 知識のなさゆえに捏造モード。



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