血色そして焔色
それから五日程同じ行動を繰り返したのだが、聞き込みはともかくとして資料は大雑把に読破したので一度ガウリィの元へあたしだけ行くことにした。
詳しい目処もつけていなかったし、恐らくあたしがガウリィの元へ行く頃には情報収集もほぼ済んでいるだろう、という結論を導いたからだった。
隣町といっても徒歩で三日ほどはかかるため荷物の準備を済ませたとき、ノック音と共にアメリアがあたしの部屋に入ってきた。
「リナさん、これ持って行ってください」
そう言われて渡されたのは、両手で持てる大きさぐらいの透明な水晶だった。
宝石の護符
(
ジュエルズ・アミュレット
)
のように、中には魔法陣がぽっかりと浮かんでいた。といっても、あたしが宝石の護符に使用する魔法陣よりはるかに複雑なものだったけれど。
「くれんの、これ?」
「違いますっ、貸すだけです」
焦ったような反応を見せるアメリアを見る限りは、どうやら高価なもののようだった。
「それ、
隔幻話
(
ヴィジョン
)
の携帯版なんです。端末となる魔道士がいなくても、その水晶が変わりになってくれるんですよ。その代わり、人の姿はその水晶の中に映し出されるんですけどね」
へー、とあたしはその珠をまじまじと見た。
まぁ、魔道士の代わりとなる珠なのだから複雑な魔法陣じゃないと対応できないんだろうけれど、手間がかかってそうな代物である。
「これ、一般には出回ってないでしょう? セイルーン城出る時にでも持ってきたの?」
彼女のつてといえばそれぐらいしか思い浮かばなかったので、聞いてみると笑顔でこくりと頷いた。
「ええ。これをゼルガディスさんに持たせておけば、本当にわたしのことが嫌にならない限り行方知れずになることはないでしょう? ……不安なので」
「そういうもんかしら。傍目から見れば、ゼルのほうがアメリアにベタぼれだって分かるのに」
寂しげなアメリアの言葉に掛け値なしの本音を述べたのだが、しかしあたしの言葉をまるで信頼していないのか、いつも通りの明るい笑顔に戻ることはなく、彼女は寂しげな笑顔を添えて言葉を発した。
「なに言っているんですか、リナさん。みっともなく彼を求めているのはわたしのほうで、わたしが足掻かなくっちゃ恋愛にもならないんです」
彼女らの恋愛に深く首を突っ込むつもりはないが、どうせ両思いだというのにあの朴念仁なゼルが余計なことをしてややこしくしているのだろう。
ゼルの枷もわかるのだが、ややこしくする必要はないと思う。アメリアは手に入らないものは手を伸ばして道具を使ってでも手に入れる強い娘なのだから、せめて自分のカードを全て提示した上で二人で決めたほうが幾分か建設的なのに。
まぁ、カードを全て提示するのはあたしやゼルのように頭でっかちな人間には難しいのだけれど。
あたしはそう思いながらも、当人でないのに彼の思いを全て提示するわけにもいかず(提示してもこの娘は信用しないだろうけど)彼女の肩にぽん、と手を置いた。
「……ありがとね、アメリア」
「どういたしまして!」
こうして、あたしは荷物を一つ増やしてガウリィの待つ村へと向かった。
三日ほどかかり着いた村は、ガウリィを置いて旅立ったときと何一つ変わっていなかった。
まぁ、たかだか一週間とちょっとじゃあ変わりようもないけれど。
さて宿屋に向かおうと覚えている道をすたすたと歩いていると、ぽんと肩を叩かれそちらを見るとふっくらした体格の四十代のおせっかい焼きそうなおばちゃんが、ひどく可哀想な目であたしを見ていた。
ちょっと待った、あたしなんか同情されるようなことしたかっ!?
「あんた、やたら綺麗な剣士さんここに置いていっただろ。後悔先に立たずだね」
「へ?」
発せられた言葉の意図が読めず、あたしは間抜けな声を出した。
その声を聞いて、更に哀れと思ったのかおばちゃんは簡潔に説明してくれた。
「あんたが置いていった剣士さん、五日前ほどにふらーっとこの村から出て行ったよ」
もうちょっと早かったらやり直すことも出来たかもしれないけどねぇと続く言葉から推測するに、どうやらあたしは復縁を求めている恋人だと思われているようだけれどもそれよりも先に!
「出て行ったんですかっ?」
「ああ、そうさ」
あたしの言葉におばちゃんは気の毒そうに肯定した。
早く宿屋に行って事実を確認したい気持ちに駆られたが、おばちゃんに詳細を再度聞けるか分からない。探すのは簡単だろうが、効率性を考えれば今聞いておいたほうが手間は省けるだろうと急ごうとする足を止め、さらにおばちゃんへ質問をした。
「おばちゃんはガウリィ――連れがこの村を出て行くのを見たんですか?」
「ああ。早朝畑仕事をしようとしたらすれ違ってね。首都へ向かう道を歩いていったから、てっきりあんたらを追いかけたもんだと思ったのさ。まぁ、今考えてみればあんな空ろな表情で仲間の元へ行くわけがないけどねぇ」
空ろ?
ガウリィは以前とある町で透明人間の生殖反応に見事適合して、透明な気持ちになると透明人間になれるという特殊能力もちなのだが――その透明な気持ちとおばちゃんが見た空ろなガウリィは違うということ?
あたしにはとてもじゃないがその気持ちの差は分からない。
その他にもいくつか質問してみたが、おばちゃんからはこれ以上の情報を手に入れることは出来ず、話が長引く前にお礼を述べて宿屋へ向かった。
しかし、宿屋に行っても結果が覆ることはなかった。
「ああ、ガウリィさんね。五日前ほどにチェックアウトしてもう出て行ったよ」
宿屋のおっちゃんは台帳をぺらぺらと捲りさらっと答えた。
「出て行く前、なんか変わったことはなかった?」
あたしがそう聞くと、おじちゃんはそうそうとすぐに何かを思い出したように言葉を繋げた。
「兄ちゃん、チェックアウトする前とは随分様子が違ってたなぁ。いつもは何か聞いても朗らかに答えてくれたのに、その日は何を考えているのか分からない表情で、こっちが何か聞いても何も答えずチェックアウトの手続きだけして出ていったんだ」
あんまりも対応が違うものだから、ひどく驚いたなぁとおっちゃんは続けた。
「あれは、なんか魔術にでもかかったような変わりようだったなぁ。
魅了
(
チャーム
)
にかけられているっていっても納得するぐらいだったぜ」
魅了ねぇ、とあたしは曖昧に頷いた。
おっちゃんに礼を述べて一晩だけ宿泊する手続きをすると、部屋に入りアメリアから借りた珠を取り出した。
使用方法というのは簡単で、珠に意識して呼びかければよいらしい。
恐らく、精神を集中させることにより珠の中にある魔法陣を発動させるのだろう。
呪文を唱えるように神経をそれに集中させ、何度かアメリアと呼ぶと球の中にぶわんとアメリアの顔が映し出された。
『どうかしましたか、リナさん?』
あたしは、そんなのんびりとしたアメリアの言葉に溜息を吐いた。
「ガウリィがいなくなっちゃったみたいなのよ」
『っ、ええ〜! リナさんの言うことなら食べ物を前にしての"待て"でも聞きそうなガウリィさんがいなくなったんですかっ? なにかの間違いじゃないですか?』
アメリアは驚愕したような声を発し、たたみ掛けるように質問した。
しっかし食べ物を前にしての"待て"って、……アメリアのガウリィに対しての評価が分かるもんだわ。
「何かの間違えでひょっこり出てきてくれたほうがこっちとしても楽なんだけれどね。聞き込み十分じゃないけど、今のところ出て行く前のガウリィの様子がちょっとおかしいようだったから、なにか依頼を受けて不在、というわけでもなさそうだし」
あたしは肩を竦めた。
『どうかしたんでしょうか、ガウリィさん』
「さぁね。分からないからそっちでもあたしが戻るまでにちょっと調べていて欲しいことがあんのよ」
戻るには三日かかる。
別の案件を頼むのはちょっとだけ申し訳ないような気もしたが、そのタイムロスを考えれば二人に調査を依頼するほうが効率的だろう。
『いいですけど……、ガウリィさんそっちにいるってことはないんですか?』
「一応今から聞き込みしてみるけど、ガウリィに何かあるとしたらそっちのほうが可能性は高いでしょ」
『それもそうですね。で、調べてほしいことっていうのはガブリエフ家についてですか?』
「そう。ガブリエフ家の噂や文献を当たってみて頂戴。あの家はそこそこに有名な貴族だから、資料はそれなりに残っているでしょうし、人の噂に上がることも多いでしょう。なるべく、多くの情報が欲しいわ」
『分かりました。ゼルガディスさんと一緒に当たってみます。これぞ正義のため、ビクトリー!』
珠の中でもアメリアはアメリアらしく、ブイの字を天井に掲げたらしく腕が映像からはみ出て切れていた。
彼女の明るさはこういったときほど救われる。
ガウリィがいなくなって、しかもちょっといなくなったときの状況がおかしかったと聞けばポジティブなあたしでさえ少しばっかり落ち込みそうになるのに、アメリアは落ち込もうとする心すら拾い上げ元に戻してくれるのだ。その明るさで。
なのに、自分の恋に関してはネガティブっていう彼女の感覚には疑問を感じるのだが、まぁ相手が相手だし恋心というものは本来の自分じゃなくなってしまうほど強烈なのだろう。
と、余計なことまでに考えを及ばせながら、あたしは顔をほころばせた。
「じゃ、よろしくね」
『はいっ』
元気の良い返事を聞いてから、交信を切るとあたしは聞き込みをするため腰を上げた。
>>20071006
ちなみにシリーズのゼルアメはゼルアメコンサートに提出したゼルアメ。
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