血色そして焔色




 村で聞き込みをしても最初に聞いた情報以上の情報を得ることは出来ず、なおかつあの村ではなんの変化も起こっていなかったようなので、あたしはアメリアに告げたとおり翌日には村を出て三日をかけエルメキア帝国の首都に戻ってきた。
 宿屋に着くとアメリアが元気良く手を振って出迎え、ゼルはその隣でちらりと視線をあたしに向けた。
 中に入ると、食堂で話すことによって人伝いに話が洩れるのを警戒し(敵が決まったわけではないが敵である確率が高い人に警戒しているのだ)、ゼルの部屋へ行く。
 アメリアはベッドに座り、あたしは向かい合わせになるよう付属された机の椅子を引っ張り出して座り、ゼルは壁に寄りかかる。
 話を切り出したのは、アメリアだった。

「で、そっちはどうでした?」

 あたしは肩を竦めた。

「何の収穫もなし。アメリアに通信してから後は何の情報も得られなかったわ。一応あの村の調査も軽くしたけど、本当にのどかな村で事件なんてなに一つ起きてなかったし」

 そうですかぁ、とアメリアは残念そうに呟いた。
 で、そっちはどうなの? と問いかけるとアメリアは真剣な表情をして集めた情報を提示してくれた。

「まずは人間関係についてですが、ガウリィさんのご兄弟は兄のクラウディさん一人のみで、すでにご両親は他界しているようです。クラウディさんとガウリィさんの仲は外部から見た限りでは悪くなかったようですね。交友関係はクラウディさんのほうは当主ということもあって仲が良い人や逆に威嚇しあっている人は大勢居るようですが、ガウリィさんのほうはほとんど聞きませんでした。唯一交友関係があると聞いたのは、エルメキア帝国第一王子でしたが……彼とも頻繁に交友を深めていたわけではなかったようです」

 ということは、外部の人間がガウリィに何らかの恨みを持って……というのは低いということか。
 クラウディさんと敵対している人だって、何年も戻ってきていないガウリィを彼を脅すための駒にしようなどとは考えないだろう。
 そう考えると、やっぱり現時点で一番怪しいのはクラウディさんね。敵対心は見えないようだけれど……。

「次にガブリエフ家のしきたりについてですが、以前にも述べた通り家督者を光人と呼び光の剣後継者を影人と呼ぶらしいのですが、その名称の根源はやはり掴めませんでした。光人と影人は共に世襲制で光人の子供から選ばれ、影人は兄弟の中でも一番剣術に長け光の剣を操れるもの、光人は影人を除く兄弟の中でも長兄の男子を十歳で選出し、名称と権利を譲り渡すそうです」

 家督者の子供が一人もしくは男子が一人も居なかった場合は影人の子供を貰い受け、光人や影人にあてるそうです、と彼女は条件を付け足した。
 なんだか、たかが貴族なのに面倒くさいじゃない。
 つまり、一応影人が優先的に選ばれているのね。後継者のほうがなんだか残り物って感じだもの。
 更にアメリアは言葉を続けた。

「実際、影人から子供を貰い受けるということは何度かあったようで、ガウリィさんの父親も影人の子供だったそうです」

「影人というのは言い方は陰気だが、世間体上は差別されることはなかったようだな。妻を貰い受けることも可能だし、身分も光人に次ぐものを保障されている。影人となったあとは光の剣を常に持ち歩き、国や家の有事の際その力を発揮しなければならないが、旦那のような剣の腕に長けた者にとってそれは苦痛じゃないだろう。むしろ、自分の腕を試せていいんじゃないか?」

 ゼルの言葉に確かに、と頷いた。
 ガウリィの考えていることはこれっぽっちも分からなかったけれど、超一流と呼ぶにふさわしい剣の腕とそれを保つためにし続ける努力は、義務だけではなく剣術が好きだからこそ出来ることなのだと思う。
 最高の武器を携帯できて、なおかつ戦うという行為はさほど問題じゃないだろう。
 問題点があるとしたら、一つ。

「ということは、国に縛られることが唯一の弱点ね」

「そうですね。魔獣ザナファーの件もあるように、遠征ぐらいならいいみたいですけど」

 うーみゅ、遠征オッケーなら別に問題ないような気もするけどな。
 リナ=インバース歩けば魔族が当たる! みたいなことは体験できないかもしれないけれど遠征可能なら光の剣の噂ってそこそこ有名だし、お呼びがかかる確率だって高いだろう。もしかしたら、ガウリィが解決したっていうサイラーグの事件はガブリエフ家経由でガウリィに話がいったのかもしれない。

「ガブリエフ家に関してはこれだけの情報しか得られませんでした。ただ、これとは別件の伝承なんですけどちょっと気になったのがあるんです」

「伝承?」

「ええ。曰く、昔剣士が自身の限界に悩みしかし、強大な敵が現れ伝説の武器を手に入れなければならなくなったとき、魔族が現れ契約したのだそうです。最高の剣を与える代わりに食事――つまり、魔族にとっての食事、負の感情ですね。――を寄越せ、と。その代わり、その剣をなくしても同等の剣を常に与え続けようと言いました。延命をするわけではないので寿命が尽きれば契約は無効になるけれど、契約の石に新たなる契約者の血を与えることによって契約を子孫まで続けることも出来るだろうと魔族は言い、何もない空間から一振りの剣を取り出すと剣士に与えたのだそうです。魔族は消え、剣士はその剣で強大な敵を倒しました。で、剣士は契約を子孫まで続ける気がなかったのですけれど、子供は契約を続行してしまったのだとか」

 ……その伝承は。

「これを、ガブリエフ家に当てはめたらなんとなく自体が掴めません?」

 光の剣は異界の王の一部だった。
 もし、それを魔族が取り出したとしてもなんらおかしくはない。冥王が元へ返したそうなのだから、その逆を行なうこともまた可能だろう。もっともそんなことを出来るのは腹心か――いや、異界の王というぐらいなのだから赤眼の魔王を身に含んだ人間ぐらいしか出来ないのかもしれない。
 そして、ガウリィが逃げ出したくなるのもまた理解できる。
 魔族との契約の餌にされたガウリィが負の感情を引き出させるために行なわれてきたものを思い描くことは出来ないが――ガウリィは苦痛だっただろう。
 世界を見放し、自身を透明にしてしまえるほどには。

「アメリア、あたし明日クラウディさんのところに行ってみるわ」

「では、私達も!」

 ぐっと拳を握り締めて元気よく叫ぶアメリアを、しかしあたしは制した。

「少し探りを入れるだけだからあたし一人で十分だわ。それよりも、アメリアはエルメキア帝国第一王子のほうを探ってみて。もしクラウディさんと第一王子の見解が同じならば無理だけれど……手数は多ければ多いほどいいから」

 アメリアは迷うように視線を泳がせ、ゼルを見た。
 彼の瞳から何を受け取ったのだろうか、彼女は美しく笑った。

「分かりました。わたしはわたしの出来る限りの力を使ってリナさんを助けますねっ! これもまた正義、ああ友を助けるなんて英雄伝承歌ヒロイック・サーガそのものだわっ」

 これで、正義方向にトリップしなければまともな子なんだけどなぁ。
 あたしは、ゼルと目を合わせて肩を竦めた。



      >>20071012 自己設定の説明が長いっ!



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