血色そして焔色




 屋敷を出ると、まだ日が暮れるのには時間があったのであたしはふらふらっと街中を気の向くままに歩いていく。
 そういえば、調べものばっかりしていてふらふら歩くこともしなかったっけ。
 隣にガウリィ置いていると、調べ物していても妙に気が抜けて名産品食べ歩きとかするんだけどなぁ。どうも、長年隣に置いておいたせいかいるものがいないと調子が狂う、みたいなことになってるわね。
 その辺りを矯正するかしないかは、とりあえずガウリィが戻ってきてから考えなくちゃいけないな。
 などとぼんやり考えているうちに、郊外に来ていたようで家が見当たらなくなっていた。……ってどこまでぼーっとしてんのよ、あたしは! ガウリィか!
 季節だからだろうか、色とりどりの名の分からない花が咲き乱れる草原が見える。その風景に惹かれてふらふらっと草原へ行くと丁度花畑の中心辺りだろうか、人の姿が見えた。
 こんなところでなにしてんのかしら? と思いつつ近づいてみるとそこそこに背の高い青年が、誰かが故意に作ったのだろうか膝ほどの高さがある石の前に立っていた。
 ふわり、と風が吹き男性の少し長いショートの髪が靡く。
 きらきらと太陽に照らされたその髪は、青紫にも白にも見える不思議な色合いだった。
 ゼルガディスの針金の髪を思い出すがそれともまた違う、銀色とも白とも言い切れないもの。

「こんな郊外に何か用か?」

 彼はあたしに気がついたのか振り向いた。
 上物だろうと思える服を着ているその人は腰に剣を差している。顔を見てみると、なかなか精悍な顔つきをしていて良い男っぽい。色素が薄いのか黒に赤い膜をしたような目をしていた。

「ふらりと来ただけよ。考え事なんかするもんじゃないわね」

 肩を竦めそう述べると、男の人はふっと笑った。

「確かに。こんな場所に来るもんじゃない」

「って、アンタは来てるじゃない」

「俺はここに用があったからいいんだよ。たまにゃ顔ださねーとメイティスさんに怒られちまう」

 そういって、彼は目の前にある石に微笑みかけた。
 名も彫られていなかったがそれは墓標だったのだろう、きっと。

「大事な人?」

「まぁな。友人のばーちゃんで、ちっちゃい頃は俺もよく可愛がってもらってたもんだ」

 ふーん、とあたしは頷いた。
 普通大事な人と聞かれたら彼女とか肉親とかだろうというあたしの予想は少しばかり外れたが、敬称をつけているところを考えてみれば分かる程度の誤差だ。
 彼は、墓石の表面をさらっと撫でた。

「少しぐらいは恩返ししたいもんだが……、あのすっとぼけはなにしてんだか」

 呆れたようにため息をついていた。
 あたしには話の流れがまったく読めなかったが、彼は彼なりに思うところがあるのだろう。所詮他人事だし放っておくことにした。
 彼は、ふとあたしに視線を向けるといたって真面目な表情で言った。

「もし、俺がメイティスさんに恩返しする機会に立ち会えたら、アンタも手伝ってくれないか?」

「いいけど……、あたしここの住人じゃないから立ち会うことなんてないと思うけど」

 あたしは所詮旅人なのだ。
 今回は連れが英雄伝承歌のお姫様よろしくふらふらっと攫われたっぽいので(まぁ、微妙に違うのだが)、長い滞在を余儀なくされているが彼の目的を果たせるまでいれるとは思えない。
 そう言うと、彼はあたしを安心させるように笑った。

「いや、それはいいんだ。言っておきたかっただけだからな」

「そう? ……そういえば、アンタの名前は?」

「スティアだ。よろしくな、リナ=インバース」

 彼はあたしの名前を的確に呼び(名前を告げた記憶もないのに)、墓参り終わったからとさっさと去っていった。
 変な人ねぇ。
 あたしの名前が知られているのはまぁ、風の噂に聞いたのかもしれないし。とあんまり気にせず、ぼちぼち日が暮れるからと宿屋へ戻るために花畑を後にした。
 墓石に一礼だけして。


 宿屋に着くと、すでに二人は食堂の一角を取っていてあたしはそれに合わせて座った。
 どうも三人ってきりが悪くて嫌いなのよね。なんか、お邪魔虫な気分になるわ。
 とりあえず、食事前だと落ち着かなくてしょうがないので全力で食事をとった後、互いに報告しあった。

「十中八九クラウディさんがガウリィ持っているわ」

「確証を得たのか?」

 あたしの言葉に、フードをかぶったままのゼルが聞いてきた。

「まぁね。多分、次に彼と会う時にはガウリィと会えるでしょうね。――まぁ、敵としてだけど」

「ええ!? なんで愛する二人が戦わなきゃいけないんですかっ!」

 をいをい。いつあたしとガウリィが愛し合ったというのだ。
 お付き合いしましょうとも言っていないし、もしくはそれと同等の行動もしていないというのに。……まぁ、それに関しちゃあたしはもちろんだけれどガウリィも恋愛感情に免疫がないせいなのかもしれないけれど。でも、その辺りの自覚があるだけガウリィよりはマシってものだ。
 と、思考はずれているもののあたしはジト目で彼女を見た。

「愛し合っていない、愛し合っていない」

「話を飛躍させすぎだ。――まだな」

 あたしの否定と共にゼルも否定したのだが、余計な一言を付け足している。
 可能性がないとは言い切らないけれど、はっきり言ってガウリィがいたら照れ隠しの爆炎舞バースト・ロンドぐらいは発動させているところである。

「ともかく、方法は知らないけど誘導したら見事反応したから、彼は弟を操れるんじゃない? 自分の良いようにね」

「なんですって! 兄だというのに弟を操って、しかも恋人を相対させるなんてそれ即ち悪! 悪はこのアメリア、断じて許すことはできませんっ」

 さらっと述べたあたしの言葉に、アメリアはぐっと拳を握り締めて立ち上がった。
 ツッコミどころはかなりある。
 いい加減、爆炎舞撃っていいですか? とアメリアの隣を陣取っていたゼルを見ると落ち着けとばかりに首を横に振っていた。
 とりあえずまだ話すことがあったので、あたしは溜息で羞恥心を逃し話をそらすことにした。

「爆炎舞はとりあえず後で撃つとして……、そっちはどうだったの?」

「第一王子には会えなかった」

 ゼルが返事をすると、アメリアは気が抜けたのか逸れたのかすとんと席に座った。
 もうちょっとちょこちょこ動かずに座っていて欲しいもんである。

「でも、アポイントメントは取りました。明日会う予定なので、エルメキア帝国第一王子に正義とは何たるかを切々と説いてきますねっ」

「いや、正義を説いてくるのは省いてくれていいんだけど」

 冷静にツッコミを入れるが、アメリアはまるで聞く耳を持たず正義に情熱の炎を燃やしている。……背後に炎でも見えそうだ。
 あたしは溜息を吐いて、ゼルを見た。

「よろしくね、ゼル」

「ああ。これは上手くコントロールしておく」

 正義の炎を燃やしているアメリアの隣で、ゼルはぶっきらぼうに述べた。



      >>20071026 第二オリキャラ今更登場。



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