透明な光は、反射し吸収され色になる。
 深層で横たわっていた俺の変わらない透明な意識は、浮上し光が届けば何色に変わるのだろうか。




      理想の黒または白




 以前、一時仲間になり赤法師コピーやら腹心やら異界の魔王やらと戦った爆裂正義伝承歌ヒロイックサーガオタク姫と根暗な便利合成獣キメラ(名付け親は俺の相棒である)と共に、合成獣の体を人間のそれに戻す旅をしている途中。
 ゼルガディスの意向により、リナの故郷があるゼフィーリアを目指していた。
 ちなみにゼルガディスは根暗な合成獣のほうで、リナは俺の相棒である。
 のんびり遺跡に入ったりリナが盗賊狩りをしてちょっとはしゃいだり事件に巻き込まれたりしたため、それなりに日数はかかったがゼフィーリアの国内に入ることが出来た。
 首都は遠いものの、ゼルガディスが目指しているのは首都ではないためそれは問題ではない。
 そうして、リナが先頭きって着いた場所はごくごく普通の田舎町であった。
 山間にあるその場所は、斜面に果物を栽培しているのか綺麗に伐採され蔦を這わせるための棚が並んでいる様子が遠くからでも分かる。
 丁度花の咲く時期なのか、白い模様が美しい。
 その山のふもとにこじんまりと集落がある。
 レンガ造りの家が立ち並ぶのだが、前に訪れたエルメキア帝国の都市が整備された美しい精錬された町並みだとすれば、ここはこじんまりとした人々の息遣いが聞こえてくるような町並みだった。

「リナさん、なんかずんずん進んでいますけど宿屋の場所分かっているんですか?」

 心配そうにアメリア(爆裂姫のほうである)が何も言わず歩いているリナにそう聞いた。
 俺は目的地とか行動全般はリナにまかせっきりなので別段何も言われなくともそれに従うのだが、アメリアにとっては違うようである。
 リナは若干面倒くさそうにアメリアのほうを向く。

「大丈夫よ。ここ、あたしの故郷だから。宿屋に泊まるにしてもおばちゃんと顔見知りだから融通が利くわ」

「ええええーっ? そういうことは事前にはっきりきっぱりと言ってくださいよ」

 アメリアが驚き発した言葉に、リナは肩をすくめた。

「面倒。大体、ここに来た目的はゼルの目的の情報を得るためであって、あたしの里帰りじゃないもの」

「とかなんとか言って、実際は俺達を故郷に連れてくるのが気恥ずかしいだけなんじゃないか、リナ」

 今まで俺同様静かに聞いていたゼルガディスがさらりとそんなことを言うものだから、図星を突かれたらしいリナは顔を真っ赤にし魔法構成を即座に作り上げた。

「うるさいっ、問答無用の爆炎舞バースト・ロンドっ!」

 ちゅどーん、といい音を立て見事俺達三人は吹き飛ばされた。
 見事巻き添えを食った形である。
 普通ならば俺達はぼろぼろになり見事迷子になるのだが、ここはギャグパートであるため俺達は即座に復活しリナの元へ戻った。

「じゃあ、リナさんは今どこに向かっているんですか?」

 何事もなかったように次の質問を問いかけるアメリアの様は、さすが超合金姫である。
 リナもまた、何事もなかったかのようにさらりと答えた。

「実家よ、一応顔出しとかないと。……まぁ、この時間姉ちゃんは仕事の確率高いから意味ないんだろうけどね」

 疲れたように、リナはハァと溜息を吐いた。

「ををををっ! じゃあ、リナさんとガウリィさんの当初の目的は達成じゃないですかっ!」

 リナの言葉に反応したアメリアは、目をきらきらとさせてぐっと拳を握り締めていた。
 ……当初の目的?
 俺が首をかしげていると、アメリアはしっかりしてくださいよぅ、と俺の腕をぐいぐいと引っ張り体を揺さぶる。

「わたし達と会う前はリナさんの実家に行くつもりだったんでしょう? ご挨拶をしに」

 含みを入れて言うアメリアの言葉に、そういえばと思い出す。
 思い出していると、リナが凶悪な笑みを浮かべて俺からアメリアを引っぺがし彼女の首を絞めていた。

「アンタ、戯言ばっかり言っているとドラスレで宙に飛ばして電撃竜にぱくっと食わせるわよ」

「ひぃぃぃっ! 止めてください、リナさぁんっ」

 恐怖に引きつった顔をしながら、アメリアは声を絞り出すように命乞いをしていた。
 その様子が面白くて俺は笑う。
 リナといると笑顔が絶えることがなくて、とても楽しい。
 ふとリナの視線が笑っている俺に向けられ、俺の表情を認識した途端彼女は安心している嬉しそうな表情を見せた。

 そうして、集落の中心地に行く手前でリナは止まった。
 目の前にあるのは店である。
 大きく窓が取られたその奥には、葡萄の模様が書かれたガラスの傘があるテーブルランプや可愛らしいぬいぐるみ、その隣にはスタイリッシュながらも実用性のありそうなキッチン用品が中に入って、と誘うように飾られていて。
 木製の扉をリナが開けると、からんころんと鈴が鳴った。
 リナに続き俺達も入ると、こじんまりとした店内には演出スペースなのだろうか、見せるように飾られた四角い島のようなスペースと商品棚が三つある。壁面も利用されているから商品を置くスペースは計五つだろうか。
 会計カウンターは奥にあるのだろうか、それらしいカウンターが見える。
 アメリアやゼルは商品をきょろきょろと見ているが、リナはまったくそのようなものに興味がないように奥へと進む。
 彼女の後をついていく過程で商品棚を見たが、鍋やフライパンなどの金物が置いてあるかと思えば、反対側には真っ黒な石やリナが身に付けているような魔法が封じ込めてある宝石などが見える。
 統一性の見えない店だな。
 などと思っていると、リナの声が聞こえ意識をそっちに向ける。

「ただいま、母ちゃん」

「おかえり、リナ」

 その言葉に、カウンターの近くまで歩きひょいと見てみる。
 白金の髪を邪魔にならないようになのか一くくりに結び普段着にエプロンを身に付けたその人は、白金の目で俺を認知すると、にこりと微笑んだ。

「こんにちは、リナのお友達?」

 口調は柔らかで、リナの性格はどちらかといえば父親似なのだろうと推測できる。
 顔立ちはリナと同じく小顔で大きな目をしており背丈も彼女と同じぐらいなので、姿形は母親似なのだろうが(もっとも胸の大きさは……父親に似てしまったのだろうか)。
 すると、なぜかすこーんとスリッパが俺の頭を叩いていた。

「いたっ。俺、なんかしたか?」

 叩いた張本人に聞いてみると、リナはびしっと人差し指を俺につきつけた。

「アンタ、あたしに対してしつれーなこと考えたでしょ!」

 なぜだか、思考でもカッコでくくってある上にぼかした表現をした部分を的確につっこまれた。
 超能力でもあるのだろうか。

「リナ、いくらなんでもお友達にスリッパではたくなんて失礼な真似は止めましょうね」

 俺がなんの返事もせずにいると、リナの母親がにこにこと微笑みながらそう注意した。
 笑顔だというのに、妙な迫力がある。
 リナもそれを感じ取ったのか、顔を引きつらせている。

「は、はひ……」

 そのせいか返事のろれつが若干おかしい。
 しかし、リナの母親はその返事で彼女を許したらしく、雰囲気が元に戻っている。

「わかってくれたらいいのよ。すみませんね、リナったら誰に似たのか口は悪いし手も早くて」

「いえいえ。俺は多少ぼけているところがあるので、リナにスリッパで叩かれて丁度良いくらいなんです。気になさらないでください」

 頭をかいて笑顔で言うと、彼女はくすりと口に手を添えて笑った。

「じゃ、ガウリィさんのつかみはオッケーということで。リナさん、私達をお母さんに紹介してもらっても良いですか?」

 タイミングを狙っていたのか、楽しげにそう言ったのはアメリアである。
 しかし、俺のつかみはオッケーってなんのことだ?
 俺にはよく分からなかったが、リナは理解したらしくなに言っているのよ、と怒っていたがスリッパや爆炎舞は飛び出さない。先ほど母親にきっちり言われたせいだろう。
 そうして、リナは眉間に皺を寄せながらも母親に俺達を紹介した。

「母ちゃん、すっとぼけた金髪の男がガウリィで面倒な女の子がアメリアでそこの奥で黒い物体を興味深げに見ている岩男がゼルガディス。みんな、旅の仲間よ」

「旅の仲間なんて水臭い! 正義の仲良し四人組とっ、言ってください!」

「いつから正義になったのよっ!」

「それは、私達が出会い旅を始めたその時からです!」

 アメリアはなぜか元気よく拳を突き上げている。その様子をリナの母親は楽しげにくすくすと笑った。
 すると、黒い物質を興味深げに見ていたゼルガディスが俺達のところへ来て、リナにそれをぐいっと見せる。

「アンタんちはこんなものまで売っているのか。これ、暗黒物質ダークマターじゃないのか」

「ああ、未知の物体って奴? なんでそれだってわかんのよ」

「レゾが可能性の一種として調べていた。オリハルコンはただの金属だが、ダークマターは賢者の石にも匹敵する未知数の能力を持つと。……簡単に調べてみたが、これの構造はオリハルコンとも他のどの金属とも違う。ダークマターの可能性が高いんだ」

 で、値段はいくらなんだ? とゼルガディスが問いかけると、カウンターに座っているリナの母親が穏やかに微笑んだ。
 顔立ちはリナに似ているというのに、表情が違うだけでこんなにも印象が違うのか、と思う。

「確かにそれはダークマターと呼ばれるものだとルナが珍しそうに言っていたわね。でも、それはお父さんがたまたま譲り受けたもので、なかなか売れないから銀貨二枚で売ってるわ」

 それでも誰も買ってくれないんだけどね、と彼女は肩をすくめた。
 どうやら彼女にとってみればゼルガディスが物珍しがっている商品は不良在庫のようである。

「そんなに安くて良いのかっ?」

 レゾですら探し当てられなかったのに、と目を見開きゼルガディスは叫んだ。

「だって、邪魔よ。それ置いておくより、フライパンを置いたほうが売り上げに繋がるもの」

 まったく興味のない口調でリナの母親は言った。
 すると、リナは唇を尖らせる。

「えー、じゃあ母ちゃんあたしに頂戴。あたしだって、暗黒物質調べてみたい」

「アンタ、横取りしようとするなよ」

 子供のような言い草に、呆れたような口調でゼルガディスが言った。
 まったくだわ、とリナの母親も呆れたような視線を自分の娘に向ける。

「先に見つけたのはゼルガディスさんだし、商売人としてはタダで娘にやるよりも銀貨二枚でゼルガディスさんに売ったほうが儲けが出るから、アナタに譲る気はないわね」

「肉親の情もクソもないんだけど、母ちゃん」

「肉親の情よりも儲けを優先するのは商売人として当然でしょう?」

 なんか、ここにリナの原点を垣間見た気がする。
 リナは不満そうに口をへの字にしていたが、それ以上食い下がらないところを見ると恐らく言っているほど興味はないのだろう。もしくは自分の母親の性格を理解して食い下がらないだけかもしれない。
 ともかく、ゼルガディスは嬉しそうに銀貨二枚を支払って光を発しない黒い物体を楽しげにくるくる弄んでいた。
 リナはその様子を横目で見ながら、母親に質問した。

「ところで、姉ちゃんは仕事?」

「ええ。今日は七時上がりの予定だそうよ」

 リナは確認をするとそう、と呟いた。

「母ちゃん、三人泊まる部屋ある?」

 リナがそう問いかけると、彼女はにこりと微笑んだ。

「大丈夫よ。みなさん、手狭ですけどごゆっくりしてくださいね」

 俺達はそう歓迎してくれた彼女に礼を述べたのだった。



      >>20100924 早速半オリキャラはいりましたー。



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