あれからリナの故郷を二人で少しだけ眺めた後、空が茜色に染まりはじめたのでリナの実家に戻った。
 家の中に入ると、正面の扉を開ける。

「あれ、あんたたちもう来てたの?」

 リナの声につられてのぞきこんでみると、そこには向かいあわせで椅子に座っているゼルとアメリアがいた。

「はい。リナさんたちが遅いんですよ、もう日も落ちかけているじゃないですか」

 そう言うアメリアにリナは肩を竦めた。

「落ちてないんだったら夕方よ。……ああ、ゼル」

「なんだ?」

 ゼルは不思議そうにリナを見る。
 リナはなんてことのないことを聞くように言った。

「アンタ、ディルギアに会った?」

「いや。……あいつ、この町にいるのか?」

 ゼルは単純に驚いたような表情でリナを見た。

「って言うか、うちの裏庭にね。見ると笑えるわよー」

 ぱたぱたと手を振ってそんなことを言うリナは、さすがである。
 ゼルはなにが笑えるのか不思議そうであったが、首輪をしてでっかい犬小屋に繋がれているとリナが説明すると納得したようであった。
 というか、俺にはどこに面白い要素があったのか分からないのだが。

「会いたくないんだったら店のほうから出入りしてちょうだい」

 ディルギアは鎖で繋がれているからあの範囲以外は散歩の時間でなければ遭遇することもないだろうから、とリナはどうでもいいことのように言った。
 しかし、あの獣人がいることを教えたのは十中八九ゼルのことを考えてだろう。
 俺はまったく覚えちゃいないし、リナは笑いはすれどもそれ以上の感情を持っちゃいない。
 けれど、レゾ関連ということは恐らくゼルとどういった形であったとしても仲間だったのだろう。
 ゼルがあの獣人をどう思っているかなどわからないが、けれど俺やリナよりはなんらかしらの感情を有していてもおかしくはない。
 リナはやることなすことが強烈過ぎるし仲間に攻撃呪文を放つこともちゅうちょしないが、しかし人への配慮はきめ細やかである。なにからなにまで鈍い俺とは違い。
 だからこそ、冗談めかしてゼルにディルギアの存在を教えたのだろう。
 ゼルはリナの言葉に口元を緩めた。

「分かった」

 そう言ったゼルは、リナの真意を理解しているようだった。
 リナはにっと笑うと話題を変える。

「ところで、母ちゃんは台所?」

「はい。手伝おうとも思ったんですが、ゲストなので待っててと言われてしまってこうしているんです」

 アメリアは申し訳なさそうにしゅんとした。
 リナはそんな彼女にぱたぱたと手を振る。

「うちの母ちゃん、客に手伝われるの嫌がるから気にしないで。でも、あたしは手伝わないと姉ちゃんに怒鳴られるから手伝ってくる」

 面倒そうにそう言うとリナはマントとショルダーガードを取ると玄関に続く扉とは違う扉に入っていった。
 それを見届けた後、俺はプレスト・アーマーを外しとりあえずゼルの隣に座ろうと思ったのでその隣の床に外したそれを置くと、席に座る。
 すると、タイミングを見計らっていたかのようにアメリアが口を開いた。

「しっかし、リナさんとお母さんって顔は似てますけど性格が全然違うんですね。わたし、もっと強烈な性格だと思っていました」

 リナがいたら十中八九攻撃呪文を唱えるであろう発言である。

「確かに。リナを育て上げられる両親となれば、あいつ以上の曲者かと思っていたが物腰の柔らかい正反対の人だな」

 ゼルもアメリアの言葉に同意している。
 俺はふーん、と思いながら別段口出しする気もなかったのだが、アメリアが興味津々の目で俺を見て聞いてきた。

「ガウリィさんはどう思いました? やっぱり、お義母さんとの関係って大切ですからねっ!」

 どうにもアメリアはピントの外れた心配をしているようだった。
 恐らく色恋沙汰が好きなせいなのだろうが、俺とリナの間にその感情は芽生えていないのだから余計な心配だと思う。
 まぁ、それはともかく聞かれた内容は別段言葉に窮するものでもなかったので返答をした。

「素敵な人だな。リナのことを大切に思っていて――、リナがああいう性格になったのも頷ける」

 きっと、リナの焔のように真っ直ぐでしかし優しい性格は大切に育てられたのだと分かる。
 母親しか見ていないが、きっと彼女が選んだ夫――リナにとっての父親もそれだけ素敵な人なのだろう。彼女は人を見る目があるだろうから。

「じゃあ、ガウリィさんもお義母さんも第一印象はばっちりってことですねっ」

 それは、とてもいいことです。とアメリアはぐっと握り拳を作って言った。
 俺は首を傾げる。

「俺はともかく――、リナの母親もって?」

「ガウリィさん達が帰ってくる前にきっちり聞いていたんです」

 リサーチは完璧ですよ、とアメリアは親指を突き立てる。

「ガウリィさんのことどう思いますかって聞いたら、まだ成長過程なのか不安定な人だけど優しくてリナを思ってくれている素敵な人ねって答えてくれました。きっちりガウリィさんの性格を把握しているみたいなんで、わたし達が出て行った後、何か喋ったのかなってゼルガディスさんと話していたんですよ」

 姿や雰囲気は会った印象で分かるけれど性格は話さないと分からないものですから、とアメリアは興味津々ですとばかりに俺の顔を覗きこむ。
 俺はなんてことのないように答えた。

「少しだけな」

「その少しだけで、どうやってリナさんを思っているってところをアピールしたんですか。すっごく気になります」

 気になるといわれても、別段アメリアに話せるほどリナの母親と会話したわけではない。
 困ったので首をかしげた。

「そんなに期待されても本当に他愛もないことしか喋っていないんだけどなぁ」

 すると、見かねたのだろうかゼルガディスが助け舟を出してくれた。

「旦那のすっとぼけたクラゲ頭に答えを期待したってしょうがないだろうが。大切なことを喋っていたってすぐに忘れて、たいしたことじゃないっていうだろうさ」

 ……半ば、けなされた助け舟であったが。
 しかし、それでアメリアは納得したらしい。

「確かにガウリィさんなら聞き出せなくてもしょうがないですね」

 まぁ、俺の記憶力が当てにならないことは俺も認めているし、彼らにそう認識されていることも知っているので別にどうでもいいのだが。逆にこうやって面倒なことを深く突っ込まれなく済むから楽なぐらいだ。

「そういえば、なんか情報はつかめたのか?」

「まぁ、ガウリィさんが情報収集に行くと言ったわたしの言葉を覚えているなんて!」

 明日は雹でしょうか槍でしょうか、とアメリアはオーバーすぎるアクションで俺の話題転換に乗っかってきた。
 それぐらい、俺だって覚えているぞ。特にここに来たのはゼルの身体を元に戻すためなのだから。
 まぁ、よく忘れるが。

「旦那が言葉を覚えていたせいか、有益な情報は得られなかった。やはり、赤の竜神の騎士スィーフィード・ナイトに会うのが先決だろうな」

 リナは分かっているようだから、明日はなによりも優先させて案内させないととゼルが呟く。
 そういえば、フィリアと会った時に異世界の魔王召喚阻止に抜擢されたのって、赤の竜神の騎士が断ってリナの姉ちゃんがリナを指定したからなんだよな。
 ……ん?
 なんか、なにかが引っかかったような気がするんだが……。
 首をかしげていると、突如がらりと扉の開く音が聞こえた。



      >>20101019 うむむ、週一更新ってむずかしい。



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