一週間後、俺は"道"へ来ていた。
リナに立ち入り禁止を言われたが、ルナさんが様子を見に行こうと俺を連れ出し二度ほど見に行ったことがあるのであまり久しぶりという感情もない。
などと、なにも考えずぼうっとエントランスを眺めていたらリナが俺を呼んだ。
「ちょっとガウリィ! 今から攻略すんだから、アンタも来なさいっ」
なので、俺は隠し扉の前に立つ四人の元へと向かう。
俺が行くと四人は事前の打ち合わせを終わらせていたようで、メキアが移動し壁のボタンを慣れた様子で押す。
すると、がががと音が響き渡り目の前にあった何の変哲もない壁だった場所が横に動きぽっかりと穴が開いた。
穴の中を覗いてみると、上り階段と下り階段が見える。
「んじゃ、何かあったらこのマジックアイテムに連絡よろしく」
「ああ。面倒起こすなよ、リナ」
リナは手のひらにある透明な珠を見せてゼルとアメリアにそう述べ、ゼルは簡潔な返答を寄越した。
俺はそれを見たことがなかったので首をかしげる。
まぁ、覚えていれば後でリナに聞けばいいか。
「僕もなるべくこの塔の機械を操って皆さんの状況を見てみますね。よろしくお願いします」
壁から離れ俺達のところへ来たメキアは、そう述べぺこりと頭を下げた。
そんな彼に対し、元気よく声を上げたのは予想たがわず彼女である。
「はい! ゼルガディスさんが人間の姿に戻るためにもこの塔全力で攻略していきましょう! 一石二鳥、正義は必ず勝つのです、ビクトリー!」
そう言いつつ、アメリアは元気いっぱいにVの字を天に掲げた。
それだけでも周りの空気は前向き能天気なものに変わるのだから、彼女の力はすごい。
「はいはい。んじゃ、さっさと攻略行きましょ」
だがしかし、見慣れているリナは呆れた様子で適当にあしらうとこっちよガウリィ、と俺を上り階段のほうへと促した。
ゼルとアメリアは下り階段を歩いていく。
その様子を見て、メキアはよろしくと手を振っていた。
外見と内面の様子を同じくするためにか、螺旋階段で上がっていくようだった。
恐らく、塔の一番外側に近い場所を俺達は歩いているのだと思う。
今のところ何が起こるということもなく暇なので、リナに話しかけた。
「なぁ、何で俺達は上り階段のほうになったんだ?」
その疑問に、隣を歩いていたリナは見上げて俺の顔を見た。
どういう手順でこの"道"を攻略するか話し合ったのは恐らく俺が出入りを禁止されていた魔科学習得時なので、俺はその辺りの経緯を知る由もない。
だからだろう、俺が質問してもリナはまったく怒ることなく説明をした。
「アンタも聞いていたでしょ、あれを敬った聖歌を。あの聖歌の中で"誕生には知の源がある"という記述と、"死には力の源がある"という記述があったわけ。で、ゼルガディスが知りたいのは人間の体に戻る方法――つまりは知識でしょ。知の源がある誕生は、あれから一番遠い場所――つまりは地下にあるのよ」
ふぅん、と俺は相槌を打った。
が、いまいちよく分からない。
歌の内容から、ゼルガディスの求める情報を得るために誕生の場所へ行くというのはまぁ理解できるのだが――。
「なんで、誕生が地下になるんだ?」
そう、そこがいまいち分からないのだ。
リナははぁと溜息を吐く。
「ガウリィに一つの説明で十を解れなんて言うつもりはないけど――。誕生も死もあれに一番近いこととされているわ。あれに一番近いのは空の先と地の先なのだけれど、地の向こう側は誕生に近いとされたみたいね。――生物が生まれるのは地上だから」
ふむ、確かに大概の生物は地面や水の上や中で生まれる。空で足をつけないで出産する生物なんぞという話は聞いたためしがない。まぁ、もしかしたら空を飛びながら出産する生物だっているのかもしれないけれど。
けれど、俺は聞いたためしがなかったので納得が出来た。
「だから、この"道"を作る際に空へ近づき地へ近づくために最上と最下を同時に作ったらしいのよ。高ければ高いほど、掘れば掘り進めるほど――あれに近づくと思って」
あたしにはどうしてあれに近づきたいのかまるで分からないわ、とリナは呟いた。
俺も一瞬しか金色の魔王の姿を見ていなかったが、それでも納得が出来る。
――近づくべき存在ではないと。
「しっかし、見上げても先が見えないほど高い塔を昇るだなんて、ほんと正気の沙汰じゃないわ」
リナはそう肩を竦めた。
確かに、彼女の息が多少あがってきてる。
旅暮らしで体力はあるといえどリナは俺ほど持久力があるわけではないから、ただ階段を上るという動作に疲れてきていてもしょうがない。
「そろそろなんらかのアクションが欲しいところだけど――」
呟き前を見たリナにあわせて階段の先を見ると、壁が見えた。
「丁度いい頃合ね」
まったくその通りである。
リナはその壁付近に近づくと、ぽいと先ほどゼルたちに見せていた珠を俺に渡した。
「あたしはこの壁調べるから、それでゼルたちに連絡取って頂戴」
俺は首をかしげ、その珠を眺めた。
魔法などまるで分からない俺の目から見れば、中にぽっかりと浮かぶ魔法陣があるただの透明な珠にしか見えない。
それを渡され、連絡と取ってと言われてもどうすればいいのかすらまったくわからないのだ。
首をかしげる俺に、ああそうだったとリナはがしがしと頭をかく。
「そういえば、これ使っているときガウリィいなかったわね。それは
隔幻話
(
ヴィジョン
)
の携帯版……っていってもアンタにはわかんないでしょうけど、それがあると同じ水晶を持った相手と遠距離でも話が出来んのよ。で、使い方はいたってシンプルでそれに意識を集中して呼びかければいいわ。光の剣を使っていたときの感覚よ」
ふーん、と頷いた俺はその珠を見た。
持っているのはゼルだろうかと思い、光の剣の刃を出すような感覚で何度か彼を呼んでみる。
すると、ぶわんと透明な珠が濁りアメリアの姿が映し出された。
どうやら呼びかける対象を間違えていたようである。……間違えても使用できるんだなぁ。
『……ガウリィさん?』
声を発しない俺を、不思議そうな表情でアメリアは呼んだ。
「ああ、アメリア。こっちで、道を塞ぐような壁に当たってなぁ。そっちで、そんなの見つけてないか?」
そう述べると、アメリアは不思議そうに首を傾げ視線を遠くへと投げた。
俺はぼうっとその珠を見ながら、すごいもんなんだろうなとどうでもいいような事を考える。
すると、珠の向こうのアメリアはあ、と声を出して視線を俺のほうへと戻す。
『ありましたっ! 道を塞ぐ壁のようになっていますね。こっちでも調べてみますね』
元気よく発見を報告したアメリアは、そう述べる。
恐らく実際調べるのはゼルだろうけれど。
案の定、アメリアがその珠から消えることはなく、俺のほうを見て暇なのか話しかけてきた。
『階段、長いですねー。ガウリィさん、疲れませんか?』
「まぁ、まだまだ大丈夫だな。さすがにちょっとリナは疲れてきたようだったけれど。……アメリアは大丈夫か?」
『はい! わたしも正義を行使するために日々鍛えておりますから、まだまだ大丈夫です!』
ぐっとこぶしを見せる仕草をして、彼女は笑顔で答えた。
確かにアメリアはどちらかといえば肉体派なので、まだ体力はあるのかもしれない。剣も扱えるとはいえ、もっぱら魔法を使うリナが一番この中で体力がないのかもしれないなあ。
「ガウリィ、ちょっとその珠こっちに寄越して」
そんな風に思っているとリナからそう呼びかけられ、俺はアメリアに一言断るとリナへ珠を渡した。
すると、リナはゼルガディスを呼ぶように珠の先のアメリアへと言う。
それに従い、少しするとゼルガディスの姿が映った。
「ゼル、壁の入力装置なんだけど、メキアとも連絡が取れて解析してもらって入力のパスワードが分かったわ。ただ、最後の実行キーはそっちと一緒に押さなきゃいけないのよ」
『わかった。もう少しだけ待ってくれ』
「ええ、早くして頂戴」
数分後にゼルのほうからも了承の返事が聞こえ、俺は珠を持ってリナのほうに向けていた。
……といっても、あまりにも丸いため正面がどっちかいまいち分からず、顔が向いているほうをリナのほうへ向けているのだけれど。
リナは軽やかな動きで、壁に浮き出ているボタンを押していく。
俺にはまるで分からないのだが、どうやら一定の規則に沿ってボタンを押しているらしい。
そうすると、壁に浮かんでいる映像に記号が映し出されていく。
まったくちんぷんかんぷんである。
ぼうっとリナの軽やかな手を見ていると、彼女の動きが止まった。
「行くわよ、ゼル」
『ああ、行くぞ』
いっせーのーせ、と珠の中からとリナの声が重なり、一つのボタンが押される。
すると、壁に浮かんでいた映像がぷっつりと途切れ、ががががという音と共に壁が移動した。
その先にはらせん状の上り階段が見える。
どうやら、先に進めそうであった。
>>20120219
珠を使用していたのはこれの前の話ですよ。
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