落ちる夢
アメリアが出て行ったのを確認すると、ゼルガディスはとりあえず窓を全開にした。
何処から手をつけていいものか非常に悩むような汚れ方だったが、置いてあった家具類をとりあえず部屋の外に出し、広くなったその部屋の埃を拾うようにかき集めてまた、浮遊で天井を掃いて埃を落とすと袋の中に突っ込んだ。
それは結構大きな袋を軽く一つは使うぐらいの多さだった。
そのあと、最小限の力をこめた氷の矢をそれよりも更に火力を小さくした炎の矢を遠くから当てて水状にすると、雑巾を絞って部屋中を水拭きする。と、見たことも無いぐらいに綺麗になった。
そして、廊下に出していた家具を埃をはたいてから水拭きすると結構使えそうなものがあったので、使えるものは慎重に部屋の中に戻した。
椅子は少し綿が出ていたので、修理に出せば使えるだろう。
ベッドや本棚、机などは長い間放って置かれていたはずなのに、酷い壊れ方をしていなかったのでそのまま使う事にする。が、化粧台やランプなどは壊れ方が酷く使えそうに無かった。
ともかく、配置を済ませると壊れた化粧台などを分解して、下に持っていく。
と、玄関周りの埃まみれだった廊下が見違えるほどに綺麗になっていた。
「どうですか、ゼルガディスさん。見れる程度にはなったでしょ?」
雑巾を持ちながら、にこりと笑って言ったアメリアに、ゼルガディスは感心したようにきょろきょろ辺りを見渡して言った。
「ああ……。無駄に広いところを頼んでしまったから心配していたんだが――その必要もなかったみたいだな」
「はい!いい汗かきました♪」
ぶいと天井に向けてピースサインを向けるアメリアは充分に余力がありそうだった。
さすがに魔族たちと張り合うほどに体力はあるのだろうが、その様子というのが非常にアメリアらしくて、ゼルガディスは思わず苦笑していた。
と、そんな時ゼルガディスは考えていた今後の予定を思い出して、アメリアに話すことにした。
「ところで、これから俺は椅子の修理と布団を買いに行くつもりだが……一人で大丈夫か?」
邪魔になったゴミを外に一端置いてから修理と必要な布団を買わなくてはいけないな、とゼルガディスは考えていたのだった。ついでにもうそろそろお昼になりそうだし、昼食を取るのも良いかもしれない、と行動の流れを考えるといろいろと都合を済ませることが出来ていいだろう、と完結したのだったがアメリアを無視して一人で行くわけにもいかない訳で。
ゼルガディスがそう言うと、アメリアは途端にこの屋敷に悪い噂があることを思い出したようで、怖がるように目に涙を溜めた。
「うぇぇぇぇぇ…っっ、…一緒に行きます!」
返答は予想の範囲内だったが、それでも一般的な人間よりも強いアメリアの行動に苦笑しながら、そうかとゼルガディスは了承し、修理に出す椅子を持ってくるために一端分解したゴミを屋敷の外に置くと再度二階に上がり、壊れた椅子を持ってきた。
そうして、元気良くしゅっぱーつと叫ぶアメリアを視界に納めながらゼルガディスは歩き始めた。
修理屋に行くとそれなりの金額を提示されたが、机とおそろいの椅子だったし予算内だったので了承しそれを預けると、手荷物が増える前に食事に行こうとアメリアと町を歩いていた。
町に馴染んでいるアメリアの姿は他の皇女には見られないものだ。しかも人から皇女様と呼ばれれば正義してますかーなどと、何処かのキャッチフレーズのような返事を返すのだから、更に変人度は増していく。
その辺りがアメリアがアメリアたる所以なわけだが、合成獣時代に培われた人の視線嫌いは未だに健在であるゼルガディスにとっては思わずため息をつきたくなるようなものだった。
「そういえばアメリア。手ごろな値段で上手い料理を出すようなところ、知っているか?」
セイルーン国で生まれ育ってはいるが皇女さまという立場上、手ごろな値段の店を知っているかいまいち判別がつかなかったのだが、とりあえずゼルガディスは聞いてみることにした。
すると、アメリアはにっこりと笑って言った。
「もっちろんですよ!正義の使者アメリアっ、美味しいお店を網羅しているのは最早当然のことなのです!」
「……何が当然なのかは知らんがな……」
根拠の無い理由で自信満々に言うアメリアにジト目で思わず呟いていた。
と、皇女様とアメリアを呼ぶ声が聞こえてそちらを見ると、恰幅の良いおばちゃんがいた。
「皇女様、今日は正義の演説はしないのかい?」
そういった台詞が出るということは、頻繁に正義の演説とやらをしているのだろう。城を抜け出すアメリアを想像して思わずため息が洩れていた。
そんなゼルガディスを後目に、アメリアはにこやかに笑っておばちゃんの問いに答えていた。
「今日はゼルガディスさんのお部屋の掃除を手伝っているんです!これも、小さな正義ですよ♪」
アメリアの言葉におばちゃんはようやくゼルガディスの存在をその視野に入れたようだった。
じぃっと見つめて、ほうと訳の分からない納得をしているおばちゃんは、アメリアににこやかに微笑んでぽんぽんとその肩を叩いた。
「正義一辺倒で男っ気なんてこれっぽっちも見えなかった皇女様が男連れなんてねぇ。これは結婚式を見れるのはすぐかねぇ」
それは例えば、近所のおせっかいなおばちゃんがたまたま会ったときに結婚の報告を聞いて、昔のことを回帰しながら呟くような言葉だった。まぁ、その段階より手前ではあるが。
ゼルガディスはそんな思い込みに半ば呆れながら、アメリアを見てみるとその耳が真っ赤に染まっていて、思わずおいおいと心の中で突っ込みを入れてしまった。肯定するような表情をしてしまえば、おばちゃんの井戸端会議ネットワークは絶大なもので、直ぐに広がるだろう。
ゼルガディスはそれでいいのか、と思わず深いため息をついていた。
「アメリア、行くぞ」
「あ、ゼルガディスさん待ってくださいー!すみません、ばたばたしてしまいましたがこれで失礼しますねっ」
アメリアは慌てたように向き合っていたおばちゃんにぺこりとお辞儀をして、ずんずんと歩いていくゼルガディスに追いつこうとぱたぱたと忙しなく動いた。
後のほうから、「皇女様、頑張るんだよー」となんだか応援の声が聞こえたが、それは耳を通り抜けて消えていった。つまり、ゼルガディスもアメリアもそれを受け止めるだけの余裕が無かったのだろう。
「もう!わたしが案内するんですから、ゼルガディスさんが先に行っても意味ないじゃないですかー」
頬を膨らませて不平を言うアメリアにゼルガディスは眉をピンと立てて、不機嫌そうに言った。
「ほう……?ならばアンタはあのおばさんに突付かれて痛い所を長い間突付かれていたかったと?」
「う゛っ。そ、それは嫌ですけど――」
アメリアはへにょんと眉毛をハの字に曲げて、でもなにか言いたそうな表情をしていた。
ゼルガディスは口角だけ上げて、だろう?と疑問系で肯定を促した。
「ならば、感謝をされてこそ不平を言われる筋合いはないはずだ」
その言葉に、アメリアはそれでも何処か納得のいかない表情をしていたのだが、言い返せずにただ黙々と歩いて行くと目的の場所が見えた。
其処はこじんまりとした古ぼけた店だった。
「ここなんですよー。値段がすっごくお手軽なのに美味しいんです!隠れた名店なので、まだちょっと知られていないのですが、味は保障しますっ」
お店を見たとたんに、味を思い出したのかころりと先ほどのことを忘れたように明るく振舞うアメリアに、ゼルガディスは少し口角を上げて微笑むと、そうかと相槌を打った。
中に入ると、いらっしゃいませーと大きな声で歓迎され、意外と席が埋まっていたが丁度向かい合わせに座る席が一つ空いていて、定員に案内された二人は向かい合わせに座った。
「今は丁度お昼頃ですので、定食メニューがお勧めですよっ」
視線をメニューに落とすと、確かに一般的な比較的安いだろうと思われる値段がずらりと並んでいた。
特に、昼食限定の定食メニューはどれもボリュームがあるのに、安い値段で落ち着いていて例えばリナやガウリィが来たのなら泣いて謝るぐらい食べられそうな気がした。
まぁ、あの二人は何処の食事屋でも泣いて謝るぐらい食べているのだろうが。
「じゃあ……、俺はこのしょうが焼き定食一つ」
「私はフライ定食一つお願いしまーす!」
あいよーと声が聞こえて、二人は出されていた手拭で手を拭いた。
「しかし、本当に庶民的なところだな」
「はい。私結構城下町の食事処は食べ歩きしているんですよー!やっぱり民の暮らしを知るにはまず食事から!ですから♪」
多分にアメリアの趣味が含まれている気がするのは、まったく気のせいではないだろう。
しかし、城下町の食事処を食べ歩けるほどの暇がアメリアにあったかというとまったくないはずなのに、それでも食べ歩きをしているというところに、一般的な皇女様とは違うものである。
「アンタは、とことん皇女様ってイメージないよな……」
「うー…、なんかそれって失礼ですよぉ」
ぷぅっと頬を膨らませるアメリアに、苦笑するように少しだけ笑うとゼルガディスは一言忠告しておいたほうが良いだろう、と言った。
「庶民に親しい皇女様はいいけどな。いろんなとこから狙われているってのも意識しろよ?」
その言葉に、アメリアはきりっと正義を語るときの恍惚としたようなそれでいて真剣な表情で、アメリアはびしぃっと人差し指を突きたてた。
「もちろんです!正義を阻止しようとする悪は!このアメリア=ウィル=テスラ=セイルーン、断固許しません!」
「……俺が言っている事とまったく意図が違うんだが……。仕様がないか、この巫女姫様は」
いつも通りの言葉にゼルガディスはやっぱり苦笑せざるえなかった。ゼルガディスは単純にアメリアの命を心配して忠告したのに、アメリアは悪が常に身の回りにあることを意識しろと言われているようにとったのだから。
アメリアは自分の言葉に満足したようで微笑んで、まったくゼルガディスの呟きは耳に入っていないようだった。
その自覚の無さに思わずゼルガディスはため息をついていた。
と、にこやかな笑みを浮かべた店員が昼食を持ってきたので、話題は簡単に打ち切られた。
>>20051228
相殺する炎の矢と氷の矢で水は出来るのか謎です。
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