こんこんこん。
 何の音?
 風の音。あ〜良かった。
 こんこんこん。
 何の音?
 お化けの音!きゃ〜!




      魂喰い




 ゼルガディスが空を眺めると、きらりと何一つ陰りのない空は生きているものに光を降り注いでいた。
 いい加減見慣れてきたその順路を何一つ変えることの無いままにゼルガディスはセイルーン城へと道を歩んでいた。白い魔道衣はそのままだったが最早フードを常に被ってなどいない。
 纏わり付く白いマントにふっ、と独特のニヒルな笑みをその顔に浮かべると歩みを何一つ止める事も無く、ゼルガディスは歩いていった。それは、日常の光景になりつつある。
 セイルーン城に到着すると門番はゼルガディスの姿を見つけてにっこりと笑顔を浮かべると咎める事も無く奥へと促した。今でも咎められる事は多々あるが、門番には完全にアメリアの知人として認識されているようだった。
 かんかんかん、と大理石調の床が靴に当たって小刻みにリズムを取るのを聞きながら、ゼルガディスは迷わず奥の資料室へと向かう。もともとの気質が研究者向きなのか、元の身体に戻ろうと足掻いていた頃に文献を漁っていた癖が今でも残っているのか、本が独特の匂いを出しながら鎮座しているあの空気を中にいると頭がすっきりして落ち着く。
 もともと、ゼルガディスは部外者なのだ。いちいち政治の事に口を出されるのは嫌だろう、という配慮もあるのだが、何を考えているのかそれとも何も考えていないのか、フィルやアメリアは重大な事ほどゼルガディスの意見を聞く。ので、完全に常に資料室にいるかといえばそうでもないのだが。
 資料室のドアを開くと、独特の雰囲気がゼルガディスを優しく迎え入れる。それに甘えるようにゼルガディスは本棚から本を数冊取り出すと、窓に近いテーブルに落ち着きのんびりと知識を脳へと詰め込む。
 と、突然ばんっ!という大きくドアが開く音ともに響いたのは。

「やっほー、ゼルガディスさんっ!」

 アメリアの元気な声だった。
 それによって半ば強制的に視線を本からアメリアと移したゼルガディスは薄っすらと口に微笑みを浮かべた。
 どかどか、と静寂な資料室の雰囲気をぶち壊しながら、アメリアは指定席となりつつあるゼルガディスの席へと来た。もっとも、この部屋を常に使うものなどゼルガディスぐらいしかいないので、指定席というより指定部屋といったところかもしれないが。
 その元気な表情を眺めながらゼルガディスは綻ばせた顔を隠すように深くため息をついた。

「…少しはおとなしく王女様をしている事が出来ないのか、アンタは」

 ため息とともに出たその言葉はじゃれる口実になるもので、アメリアの頬を膨らませてびしぃぃっと人差し指でゼルガディスを指すと不機嫌を表すかのように跳ねる言葉で言った。

「ぶぅぅぅぅっ、わたしはわたしですから!それに、ちゃんと王女としての仕事はしていますよっ」

「はいはい」

 こっちも慣れたもので、馴れ合いのような暴言にぱたぱた、と左手を振って応対した。
 その対応はもう既に変わらぬ者となってしまったので、アメリアは定石のように更に声を荒げる。じゃれる半分、本気で怒っている半分、と言ったところだろうか。

「ゼルガディスさんてきとーです!てきとーなのは悪ですよ、悪!!」

 はぁ、とため息をつくのもこれまた定番で、ゼルガディスは何で似たような応酬をしなくちゃいけないんだと思いながら、更に言葉を返す。
 昔だったら、面倒な言葉など無視したものだが、どうもこの目の前の黒髪の少女には惚れた弱みなのか、単純な言葉のやり取りすら無視できない。それは決して不快なものではなかったが。

「お前の悪は何基準で決まっているんだ」

「わたし基準です!」

 堂々と胸を張って言う様はゼルガディスの頭痛を引き起こすには充分なものだった。
 ああ、この娘はこんなんだったよな。だが、リナ達と一緒にいるようになってから更に激しくなっていないか?と脳みそがざらざらざら、と処理能力を加速させて言葉がぶわっと浮かんでいたが、それを全てアメリアにぶつける事などせずに、発したのはただ一言だった。

「…はぁ」

 ただ、そのため息はアメリアに聞こえていたのか聞こえていなかったのか、あっ、と何かを思い出したように叫ぶとにっこりと両手を差し出していった。

「ゼルガディスさん!あの真っ白な魔道書を貸してくれませんか?」

「あれを魔道書というのはどうかと思うぞ、俺は」

 戯れのようにゼルガディスがそう呟くと、アメリアは唇を尖らせて手を差し出したまま批判した。まったくもって手が疲れそうである。

「ゼルガディスさんが最初に言ったんじゃないですかー」

「そうだったか?…まぁいい。ともかく貸せばいいんだろう、貸せば」

 諦めたように額に手を当てて呟いて見せれば、アメリアは満足そうに両手を腰において胸を張った。

「ハイ!そうですよっ」

 そうして、ゼルガディスは持ってきたバックの中からがさごそと手を動かし、それを見つけるとぽいっと、投げた。宙を舞ったその重厚な装飾がなされてある、だがしかし中身はほとんど書かれていない本をキャッチすると、アメリアは嬉しそうにその豊満な胸に抱き締めた。
 すると、「アメリア様ー」と探しているような中年の情けない声が聞こえてアメリアは少し残念そうな表情をすると、しかし直ぐにゼルガディスににっこりと笑顔を見せた。

「ではっ、もう行かなくてはいけないみたいですので行きますね!ゆっくりしていってください」

「ああ、言われなくてもそのつもりだ」

 そうして、後背を見せながら歩いていくアメリアを見ていたゼルガディスの表情は少しばかり残念そうに歪み、彼は息を吐いた。



      >>20060330 被っているところに問題を感じます。



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