魂喰い




 今日もまた膨大な資料に追われたアメリアは、食事を済ませると自室にてラフな格好ではぁ、とため息をつきながら豪華な装飾がなされている机にゼルガディスから借りた真っ白な魔道書を置くと自分も椅子に座って、そのページを開いた。
 自然に綻ぶその表情は、まるで愛しいものを見ているもので。
 約3年ほど前に見たときには無い古代文字を見つけてはどういうことが起きたのだろうか、とゼルガディスの行動にまで想像を張り巡らす。というのも、この真っ白な魔道書に文字が書かれるときには決まって不思議な出来事が起こるからだったのだが。
 そして、それはこの真っ白な魔道書と連動しているのだとアメリアは何故だか確信していた。もしかしたら、それはアメリアが巫女であるが故の第六感が働いたからかもしれなかったのだけれど。
 一文字一文字を愛しいものをなぞるように確かめていたアメリアだったが、溜まった疲れは一気にその小さな身体に襲い掛かるもので、ふあぁ、と大きな欠伸をしてしまっていた。
 もっとも、定期的な睡眠を此処3年程繰り返していたアメリアには夜更かしするということが不可能になっていて、明りを終わらせるとまるで惰性のようにふらふらとベッドへ無意識に向かうとそのまま眠ってしまった。

 真っ白な魔道書を開けたままで。










 満月の光が煌々と差し込む窓辺は何時の間に窓が開いていたのか強い風がカーテンを外へと誘い出し、開かれたままの真っ白な魔道書はぱたぱたとページを無造作に動かす。
 まるでそれに惹かれるように真っ白な手がにゅっと伸びて、ページを押さえる。
 其処にいたのは女だった。
 何も見えぬ混沌のような漆黒を連想させる長いストレートの髪に、やや大きめの黒目は切れるような涼しげな目元を演出し、そこには赤いアイシャドウが華やかさを演出するように塗ってあった。真っ赤な口紅は血を連想させるほどに深い赤で、身に纏うその服はアメリアが纏っているようなものではなく、ひらひらと風に舞うと綺麗に靡くような黒く長い袖に、同じく黒い足元すらも隠してしまうような長い布は全て一体になっており、それが単調な赤、白、黒で幾重にも重ねて着せてあった。
 そして、一際目に付くのは頭からちょこん、と生えている二本の角だった。
 女は嬉しそうに口角を上げた。引きつられるように真っ赤な唇が弧を描く。
 月明かりを味方につけた女はまるでこの世のものではないような儚さと不気味さを併せ持っていた。
 風は収まり、女はその両手を身体を支えるために窓の縁を掴んでいた。
 そうして、その赤い唇から流れるのはまるで歌のような言葉だった。

「起きなさい、私と同じものよ。
 起きなさい、食らうものよ。
 私の願いを叶えて。
 私を蘇らせて、思い出を食らうために。
 私を蘇らせて。
 貴方が貴方のままに」

 真っ白な魔道書は急にページを捲らせはじめた。
 風も何もかも一切起きていないのに、ぱたぱたぱた、とページを動かしはためかせている様はまるで同意の返事を女に返しているようだった。
 その様子に、目元を綻ばせると女は何故か黒い瞳の奥に悲しみの青の色を纏わせて呟いた。

「…有難う」

 そうして、まるで霧か幻であったかのように女はいなくなっていた。



      >>20060405 み、みじか!



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