魂喰い
次の日、目覚めたアメリアは窓を眺めて首をかしげた。
「あれ…?わたし、窓開けてたっけ?」
しかし、そんな些細な事は朝食だと侍女に呼ばれ、身だしなみを整えてフィルと朝食を取る頃にはすっかりと忘れ去っていた。
今日は別段大きな仕事は無かったので気分転換ついでにゼルガディスの様子を見に行こうと、アメリアは城下町へと繰り出した。もっとも、後者のほうが本当の目的なわけで本末転倒といったところであろうが。
大きく手と足を動かして、楽しそうに歩くアメリアの姿は城下町では最早名物となりつつある。元々、この国はあの破天荒な親子を見ていればよく分かるのだがお家騒動以外は各国に比べて平和な国柄であったので、昔からアメリアが城下町を正義の巡廻と名をつけて歩いている様は有名であったのだが、ここ最近は更に嬉しそうなアメリアの姿が男女問わず人の目を惹きつけるようだった。――もちろん、その影にゼルガディスの姿があることは国民にはほぼ分かっていなかったのだが。
ゼルガディスの家は、セイルーンでは城から一番離れている城下町の端のほうに存在していた。
その距離を苦にせずにそこの中古物件を買ったゼルガディスはともかく、毎回楽しそうに歩いていくアメリアも飽きぬものである。
比較的大きいその家にたどり着くと、アメリアは大きな音を立てながらドアを開けて叫んだ。
「ゼルガディスさーん!」
何の返事も無いうちにアメリアは勝手知ったる他人の家とばかりに、まずは食卓に使われている1階の入り口正面の部屋へと入った。
案の定居なかったのだが、ばたばたばたっ、と慌ててくるような足音が聞こえてゼルガディスが何時の間にか後ろにいた。
ゼルガディスはアメリアの姿を見て安心したのかそれとも呆れたのか、深い深いため息をついた。
その様子にあまり気にしていないアメリアはにっこり、と笑ってさっと真っ白な魔道書をゼルガディスに差し出した。
「はいっ、これ、返しますね」
その言葉に、小さくああ、と同意の言葉なのかそれともただの相槌なのかは判別できなかったが、とにかく呟いてその真っ白な魔道書を受け取って、とりあえず香茶でも……とアメリアをダイニングテーブルに座らせて、手際よく香茶を入れている。
その様は以前旅をした黄金竜の娘よりは手馴れたものではなかったのだが、それでも凄いなぁとアメリアはいつも思う。
アメリアはこぽこぽ、と琥珀色の飲み物が注がれていく様をじぃっと眺めながら何一つ動こうともしなかったので、ゼルガディスは訝しげな顔をしてポットをことりと置くと、アメリアと向かい合わせに座った。
「で、お前の用はなんなんだ?」
そうゼルガディスが問うとアメリアは驚いたように目を見開いて、その後にそわそわと目を泳がせた始めたものだから、はぁと深い深いため息をついた。
「これを返す事が用だった訳か」
「……う」
言葉に詰まったのだが、そこはアメリア。
直ぐに切り返しの言葉を思いついたようで、じっとゼルガディスの顔を見てびしぃっと指を指した。…マナー違反も甚だしい所である。
「いいじゃないですかー!正義の巡廻のついでですっ」
ぎろっと睨んだその視線は一般人であったのなら怯えているのであろうが、アメリアにはまったく効かない。天真爛漫なアメリアだからだろうか、それともゼルガディスという人格の多方面を見ているからだったのか。それはきっとアメリアにもわからないだろう。
「その正義の巡廻とやらはひたすらにお前の家臣がため息をつきそうなものだな」
「これはわたしの趣味なんですー」
「……俺がお前に何か言っても意味はないみたいだな」
「えー、多少はありますよぅ。ただ、流されたり靡かないってだけで」
「それが意味が無いって言ってるんだがな」
言葉の応酬は慣れたもので戯れと似たような感覚になりつつあることにアメリアはにこにこと嬉しそうに笑いながら、言葉を返した。ゼルガディスも多大なる迷惑をかけているアメリア周辺の人たちのことを考えていたのか眉間に皺は寄っていたものの、かなり楽しそうである。
それは穏やかでほのぼのとした光景だった。
>>20060412
加工上短めになっています(汗)。
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