魂喰い
そんなこんなで正義の巡廻とやらをしないまま、結局夕暮れまでゼルガディスの家に居座っていた。
送っていくとゼルガディスに言われたが、アメリアは「大丈夫ですよー」と何度も送っていくといって聞かないゼルガディスを無理やり丸め込むと、最早闇に覆われた城下町を鼻歌交じりで歩いていた。
「大体ゼルガディスさんは心配性なんですよー。普通の輩じゃわたしは倒せませんよっ」
ぷぅと頬を膨らませてそんなことを言いながらそれでも嬉しそうに歩いていると、不意に生暖かい風が吹いてアメリアは足を止めた。血の匂いがわずかにぷぅんと香るようなどこか不気味で肌をざらりとなにかで撫でられるような感覚に、アメリアは肌がざわめくのを感じた。
小さな声が聞こえる。
「――…まだ煮えない」
それはまるで歌のように独特のリズムを取っていて、その音に惹かれるように駆け出していた。
声はだんだん大きくなっていく。
艶やかな濡れるような女の声で、言葉は童歌のようだった。
「あーぶくたったにえたった
煮えたかどうだか食べてみよう
むしゃむしゃむしゃ
まだ煮えない
あーぶくたったにえたった
煮えたかどうだか食べてみよう
むしゃむしゃむしゃ
もう煮えた」
気のせいだと思っていた血の匂いはだんだん濃く強く臭うようになり、アメリアは顔を顰めた。
その匂いに尚更足を速め、小道を抜けて大きな広間のように出たときにその元凶は――居た。
何よりも先に目に付いたのは頭から生えている二本の角だった。こじんまりと目立たぬように生えているはずなのに、それは人の目を惹き付けるほどの違和感を有している。
そうして、次に視線が行ったのは血まみれの顔だった。
人の腕だろうか?肌色の既に物体となったものをむさぼるように食べる様は人でないように思える光景で、らんらんと光る黒い目は視線を肌色の物体に向けていたが何かを感じたのかふっと宙をさまよわせるとアメリアを捉えた。
「……っ!」
なにかを言おうとして何一つ言葉を発する事の出来ないアメリアに、女はにっこりと微笑んだ。
それは壮絶な美しさとまるで腐ってしまう前の苺のような陰湿な色香が交じり合って、目を逸らしたくなるようなものであった。
アメリアは何か言おうとしたのか口をあけた瞬間にはそこには誰もいなくて、結局声が発せられる事は無かった。
>>20060412
場面的に昼だったなら前のと一緒でよかったんだけどなー。
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