魂喰い




 次の日。
 ゼルガディスが日課のようにセイルーン城への中に入ると城の中が妙にざわめいてばたばたとしていたので、会議に使用される第一会議室に向かおうかそれとも人にさりげなく話でも聞こうかなどとのんびりとしているとフィリオネルと遭遇し、連行された。
 そこ――第一会議室では重臣である老人達がふんぞり返って鎮座しており、ゼルガディスはその様子を一瞥するとフィリオネルに促されて席についた。
 ゼルガディスが最後に来た人のようで、何故かいつも会議に組み込まれているような気がしなくも無いとゼルガディスは思ったが、ともかく今回話を進めるのはアメリアらしく立ち上がったその様子を眺めていた。

「…どうやらその女性は人の肉を食べているようであり、その様な痕跡の見られる死体が昨日までに確認しただけでも10体になりました」

 昨日見たという光景とともに説明されるその様子に、言うことを聞かずに一人で帰らせた事に対する自分に対してなのかそれともアメリアに対してなのかは分からないが、ともかく怒りが込み上げてきた。だがしかし、比較的感情をコントロールする事に長けていたゼルガディスはあとで怒ることにしよう、と自分の中で決定付けると、アメリアが話した中身の話を反復させた。

「似たような話を聞いた事がある」

 呟くと、アメリアのほうを向いていた老人達全員の視線を一身に受ける事になり、ゼルガディスは顔を顰めた。合成獣の頃の癖か、どうも話題の中心に上る事を好まない。まぁ、リナ達と付き合うようになってからはいくらかは解消されていたのだが。

「本当ですか!?」

 びっくりした表情で叫ぶアメリアの言葉にゼルガディスはこくり、と頷く。

「小さな島国の話だったんだがな。角を持った人間の形をしたものは、その美しい容姿で人を誘い食らうのだという。その島国ではそれらを鬼、と呼んでいたらしいが」

「人を食べちゃうんですか!?」

 嫌悪感を示すように眉間に皺を寄せるアメリアに、ゼルガディスはそれ自体はなんでもないことのように淡々と話す。その対照的な様子は一体、重臣たちにどう映っただろうか。

「ああ。何故食べるのか、とかはその文献には載っていなかった。単純に好物が人の肉だったのかそれとも角をはやした人間、という異物に恐れたその島国のもの達が勝手にでっち上げたのか…」

 その言葉に、アメリアはさらに眉間に皺を寄せた。
 もしかしたら、後者の言葉にゼルガディスが合成獣そのものだった頃の様子を浮かべたからかもしれなかった。ゼルガディスはそう受け取ったのか、少しばかり口角を上げて優しく微笑んでいた。
 場違いではあったが、それに気付いている人は恐らく居ないだろうほどに小さな変化だった。

「ゼルガディスさんはどう思ったんですか?」

 その言葉に肩をすくめた。
 あの頃の思考を考えるにはアメリアでも分かるほどに簡単すぎたからだ。

「合成獣との関連を考えたさ。その時はまだ元に戻っていなかったから、小さなものでも元に戻るために情報がほしかったしな。まぁ、もっともその国の情報すらもほとんど無い状態で、鬼の文献などほとんどなく結局鬼に関する具体的な情報は何一つ得られなかったが」

 その言葉に今まで口を挟まずに娘とゼルガディスのやり取りを聞いていたフィリオネルは顎に手を当て、眉間に皺を寄せて難しい顔をした。
 それはそうだろう。実質的な情報は何一つ得られていないのだから。

「ふーむ。具体的な話は何一つなしか……。ともかく、そ奴の居所を見つけん事にはどうしようもないな」

「そうだな……。具体的な策はあるのか?」

 フィリオネルに問うと首を横に振って否定した。

「ない。目的が人食らいであるのなら出歩かんように忠告する事は出来るが、発生時期も発生時間もまばらで、男女問わず。条件が広範囲すぎて絞り込む事すらできない」

 予想していた事とはいえ無差別人食に策といえば、巡廻パトロールの強化と市民に夜には家からなるべく出かけないようにと注意を促す事という結果に収まり、ともかく対策本部を設けて次の事態に備える事になったようだった。
 ゼルガディスは解散したその会議室からばたばたと重役が居なくなっていくのを見届けて、自分も立ち去ろうと椅子から立つとまだ第一会議室に居たフィリオネルに話し掛けられた。

「毎回すまないな、ゼルガディス殿」

「…そう思うんなら、俺を呼ばなければいい。重要な会議に部外者である俺を入れることを重臣どもは嫌っているんだろう?」

 まったく気にしていないように話すゼルガディスに何を考えたのか、フィリオネルは緩やかに微笑んだ。
 その様子は、いつもの平和主義者だなんだと言いながら最強の体術を繰り出す人物とは同一だと思えなかった。

「案外、彼らはお主を認めておるよ」

 その言葉に、ゼルガディスは目を見開いてフィリオネルを見た。
 まさかそんな事がありえるはずも無い、とでも思ったのだろうか。歳が取れば取るほど考えが固執する上に重臣という上流階級に属する老人だから、若く正当な血筋でもないゼルガディスを認めるものなど居ない、とゼルガディス自身が思ったのかもしれない。
 彼自身もまた、血筋に振り回されてきたのだから。

「少なくとも、多彩な知識と冷静なる判断力と堅実な政策を打ち出せる人物だと認めている。まぁ、もっともゼルガディス殿に面と向かって言うものはおらんだろう。だが、この会議にゼルガディス殿が参加するのを拒むものは少ない。…固い頭をもっている者も居るが、そこは許してくれんかの?」

 お茶目ににっこりと笑って言うフィリオネルに、ゼルガディスははいともいいえとも言えなかった。十人中十人がゼルガディスを認めることはありえないとゼルガディス自身も思っているのだから。だからといってはいとは言えないのは…ゼルガディスが照れている部分もあるのではないだろうか。

「まぁ、もっともアメリアの婿として認められるかどうかは、ゼルガディス殿がどうにかするしかないがの」

 わしに対しても、と言外に付け足すようににっこりと微笑まれて思わず顔を赤らめていた。
 ――もちろん、それはフィリオネルの笑顔に照れたわけではない。



      >>20060419 最後、もう2〜3行足したほうがしまりいいかなぁ。



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