正義と云う名の盲目
風は追い風。
わたしの後ろ側には、静かに控えている民兵達が何時命を落とすかもしれない恐怖に怯えている。しかし、彼らの目は希望に満ちている。そう、神聖スィーフィードの御心のままに聖戦の中で命を落としていく…未来をかけた戦い故に。
奥のほうで、先陣を切った兵士たちの音が聞こえてくる。
爆発音や、死んでいくときに発せられる悲鳴。そして、命のやり取りを行っている武器が軋み合っている音。
わたしは、ぎゅっと胸に拳を当てて祈った。
――願わくば、敵味方双方の心の安堵を。
そうして、くるり、と回って、不安と希望に満ちた目をしている兵士たちにわたしは叫んだ。
「神聖スィーフィードのご加護があります。正義は我にあり!!」
うぉおおぉぉぉぉぉおおおぉぉッッ!!
叫びは木霊し、戦地への足掛かりとなっていく。
わたしは、目の前の敵――ゼフィーリア王国に向かってつき走っていった。
女のわたしには似合わないと言われ続けた剣。主に打撃を主とするそれは、致命傷を負わせるには不釣合いだけれど、戦闘不能を目的とし、人々の命を削らないようにしているわたしには、ぴったりの武器で。
周りの敵兵を、軽く剣を合わせて打撃を与えて倒していくと、一直線にその部隊の頭を狙う。
銀色の頭がふわりと揺れて、光を反射した。
かきぃいいいんッッ!!
その剣と交じり合って、男の蒼い瞳と合った。
「…聖女<Aメリア=へーメラーかッッ!」
わたしの胴体は弾き飛ばされて、やや後ろへと着地する。
じぃっとその青い目を観察する。
そして、ゆっくりと、口を開いた。
「そうです。良くご存知でしたね、ゼフィーリア王国五聖のうちの一人、ゼルガディス=グレイワーズさん。貴方のお噂はかねがね耳に入れておりました」
にっこりと微笑み、けれど、警戒したまま彼を眺めた。
グレイワーズさんは笑みも浮かべず、無表情のまま、剣を構えている。…彼は、力のある魔道士で、特に精霊魔法を得意とすると情報にあったので、わたしは表情を眺めている。良く分からない、話をするためではない口の動きをしたときは恐らく魔法を使うときなのだから。
「まぁな。アンタの噂はこっちでも耳に入れていた。…スィーフィート教を強く信仰し、その声を聞くことが出来る人物。数々の奇跡ゆえに、教皇から特別に洗礼名を貰った平民。と、まぁ、今回、俺たちはアンタはあっちのほうを狙うと思って、ガウリィやらリナやらを置いていたんだけどな。…やっぱり、ルークの情報は当てにならん」
ぶっきらぼうに、そう述べる情報は正確だ。
ただ、わたしはあくまで平民であり、戦い用に訓練されたものではないから、その情報を何処から集めてくるのか、どうやって集めるのか、はなはだ疑問だったりもするのだけれど。
いえ…ともかく、今はそんなこと関係ない。
ただ、目の前の男を戦闘不能にしなければならない。…全てはスィーフィード様の御心ゆえに。
「ともかく、貴方には寝ていてもらいます」
「そうか。…神に守られた聖女とやらの力を試すのもまた面白いかも知れん」
グレイワーズさんはそこで初めてにやりと微笑むと強く土を踏んでわたしに向かって駆けて来た。
わたしはゆっくりとその太刀筋を見定めていくように前を見る。
大きく振りかぶったその剣を流すように受け止める。わたしでは、彼の剣を受け止めるには少しばかり力が足りないから。
そうして、隙を狙うように、剣を振った。
しかし、それは全て読まれているのか、全て剣であしらわれ、少し距離をおく。…でも、魔法剣士である彼に魔法を唱える時間を与えてはいけない。
わたしは直ぐに踏み込んで、彼の懐に入り込もうと剣を振る。
「筋がいい!しかし、まだまだだな!!」
彼はとても楽しそうにそう叫び、ぎりぎりと剣を交わらせた。
…ッ!力負けしてしまう!!
つばぜり合いの間に、グレイワーズさんは酷く真剣な目で、わたしに言った。
「お前は、本当に正義があると思っているのか?」
「!!」
それは、まるで純粋に問い掛けるような言葉で、わたしは意識を真っ白にしてしまった。
民兵に叫んだ、わたしの言葉は力強く、神聖スィーフィードを信じるものだったのだけれども、何処かでいつも問い掛けている自分がいたことを知っていたから。
――元々、その土地に住んでいたものを迫害してまで、スィーフィード教を広めることは果たして正しいのだろうか、と。
そして、その迷いは、戦場では隙を生む。
腹に、強い打撃を感じて、わたしは意識をなくした。
>>20050203
考えないようにしていたもの。
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