神に祈るだけでした。
 行動など何一つせずに。
 神に祈るだけでした。
 だからなのでしょうか。
 今、こうして何も出来ない事に後悔するのは。
 何一つ止められない事に後悔するのは。




      正義と云う名の盲目




 胴体に縄を巻き繋がれたまま、謁見の間へとわたしは連行された。
 にこにこと微笑んでいる教皇ゼロス様の感情はその表情からはまったく読み取られない。
 しかしわたしは臆することも無く、だからといって傲慢になることも無く、ただ教皇ゼロス様を見ていた。

「ご苦労様でした。さぁ兵士たちよ、お引きなさい。僕はアメリアさんとお話しますので」

「しかし、教皇様!」

「大丈夫です。これでも、僕は様々な攻撃呪文を取得した身。例え逃げようとしても攻撃してこようとも遅れなどとりません。それとも、貴方たちは神聖スィーフィードの御心を受け継いだ僕の力を信用していないとでも?」

 兵士は驚いたように叫んだ。

「と、とんでもございません!!」

 兵士はわたわたと、下がっていった。
 教皇ゼロス様はそれでも、にっこりと微笑んでいた。

「聞きましたよ?戦場で、敵国の重要人ゼルガディスさんを助けたそうですね?」

「ええ」

 わたしは、にっこりと微笑んだ。
 そのことに関して後悔など、何一つしていなかった。
 わたしはわたしが思った正義を貫けた。それだけで、充分だったのだから。

「僕は貴方を良い駒だと思っていたんですよ?残念ですねぇ、貴方は作戦を二度も失敗に追い込みしかも戦場で巫女以外は知識をも持ってはいけない回復魔法を敵兵に使ってしまった。…まさしく魔女そのもの。国民の反発を買うこともなく今までの敗戦は魔女である貴方が行ったことになり、貴方は魔女にふさわしく火あぶりの刑になるでしょう」

 酷く楽しそうに、教皇ゼロス様はわたしにそう言った。
 その言葉が酷くおかしく感じたのは恐らく、最初の良い駒≠ニいう発言ゆえだろう。
 神の言葉を代弁し一番神の近くに存在するはずの教皇の言葉とは、わたしには思えなかった。
 わたしは叫んでいた。

「教皇ゼロスッ!貴方の意思は神聖スィーフィードの意思に反します!!教皇であるはずの貴方が何故神の御心に反するような真似をッッ!!」

 教皇は、薄く目を開いた。
 強く強く恐怖を感じる紫色の目は、ゼルガディスさんの蒼い瞳とはまったく違う様相を呈している。
 そうか何故かこの人の目から恐怖を感じるのは、…酷く酷く憎しみを持っている所為だ。それが、何処に向けられているのか誰に向けられているのか、それはわたしには分からないけれど。

「罪人となりこの国での発言は一切信用無くしてしまうあなたには言っておきますけどね」

 そう言って、教皇様はとても面白そうににこにこと笑った。

「僕は来世の幸せとか興味がないんですよ?神がこの世にいるとも思えませんし。だったら、この立場を利用し征服欲を満たしていくしか僕の欲望を満たすものは何一つありはしないじゃないですか?そして、その征服欲のいい言い訳が聖女≠ナあった貴方だったんですよ?アメリアさん。神の化身でもある聖女が侵略戦争を行えば、この国の愚民どもはその戦争を支持します。そして、貴方には数々の敵国からの侵略を女の身一つで守ったという聖女≠ニしては申し分のない実績がありますし。そして、今は負け続ける理由にもなってくれる。貴方という存在は非常に便利でした」

 わたしは目を見開いた。
 神の僕であるはずの、教皇が何故このような悪しき意思を持っているのか。
 そして、この人の前に立つたびに教皇として似合わないと思い続けた、その違和感が一気に解決した。
 この人はただ神の名を借りただけだったのだ。
 そして、この国のことなど何も考えずに自らの欲望により、国民を疲弊させ他国の人々までも不幸のどん底へと陥れていた。
 …そして、それを知らずともわたしは片棒を担がされていた…。
 わたしが、ただ神の名のもとに、と教皇の行動に従ったが故に愚か故に、何の罪も無い国民たちを、人々を不幸へと導いていたのだ。
 わたしは目の前が真っ暗になるのを感じながらも、叫んだ。

「なんて…なんてことを!人々の心を惑わし、悪魔に身を捧げたか!!」

 それでも教皇は笑っていた。

「失礼な…。僕はただ欲望のままに悔いのない人生を送っているだけですよ?そう、神聖スィーフィードの言うところの来世なんてどうでも良いですからね」

 わたしは走っていた。
 教皇の狂気を食い止めるには、今ここでゼロスさんを殺してしまわねばいけない。
 けれど教皇は笑ったまま手を翳した。

「獣王牙繰弾」

 光線が角度を変えながらわたしに襲い掛かろうとしている。
 わたしは飾り剣に向かってジャンプをし、縄に剣が引っかかるように落ちた。
 細い縄は切り落ちて手を翳すと風の結界を唱える。そうして、ぶつかった光線は消えてなくなった。

「これは…黒魔法!教皇であろう貴方が何故!?」

「あれ、貴方は僕の事を悪魔に身を捧げた、と言ったじゃないですか。強力な呪術である黒魔法は何かと便利なんですよ?まぁ、精霊魔法も崩霊裂並になれば利便性に富んでいますけど」

 にこにこ、といつものようにゼロスさんは笑っている。
 椅子から立ち上がったゼロスさんは微笑んだまま、飾り剣を持ち上げて警戒しているわたしの元へと徐々に近づいていく。
 わたしは駆け出し、振りかぶってゼロスさんに打撃を加えようとした。
 が、しかし何処にでもある杖でそれを受け止めた。
 なぜ!?飾り剣でもそれなりの殺傷力がある。あんな何処にでもある杖ごときで受け止められるはずが無い!!
 しかし、現実にそれは起こりゼロスさんはわたしの剣を押しのけると、そのまま杖を振りわたしの腹部に強打を加えた。

「さて、貴方との話もこれでお仕舞いです。…処刑は一週間後にいたしますので、それまで貴方の大好きなスィーフィードにでもお祈りしてください」

 意識は暗転した。



      >>20050309 純粋なる欲望。



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