私はただ受け入れるでしょう。
 運命をただひたすら真摯に。
 だけれどもそれは。
 また逃げている事にならないのでしょうか。
 行動できるのに出来ないと。
 全てに諦めて逃げているだけではないでしょうか。




      正義と云う名の盲目




 そうして、私は地下の牢獄に捕まえられていた。
 高い殺傷力を持つ攻撃呪文はモーションを取らねば発動しないので、後ろ手で縛られ、低い呪文では壊れないような鉄の牢屋に閉じ込められていた。
 恐らくセイルーン国内で、わたしが魔女だと言う噂は瞬く間に広がっただろう。
 盲目的になりすぎた私は国民の疲弊に加担した。多くの人を殺し、多くの人から幸せを奪った。彼らはわたしを殺す権利をもっている。
 それでも、わたしが死んでしまってもゼロスさんの狂気が止まることもないだろう。
 わたしが加担してしまった狂気は、止まることも知らずセイルーンを例え滅ぼすことになっても止まることは無いのだろう。…彼が、息絶えるまで。
 何故その様な狂気に彼を何が駆り立てているのかは知らないけれど、ああ、わたしはそれを止めることが出来ない。
 ゆっくりと神に祈りを捧げていると、かんかんかん、と音がして、黄金の髪がきらりと光るのを見た。
 フィリアさんが、にっこりと微笑んでいた。

「処刑する前に神への懺悔を、と教皇様が申されまして王宮付き巫女である私が貴方の元へ派遣されました。何か、仰りたいことはありますか?」

 その微笑みは決して嫌悪に満ちたものでもなくただ、微笑んでいるだけだった。
 わたしは、ゆっくりと瞳を閉じた。

「わたしはわたしの思い込みゆえに多くの人々の血を流し、多くの人々に悲しみを味わわせてきました。この身が火あぶりになってもそれは神の御心だと受け入れる所存ですが、どうか、どうか、教皇ゼロスの狂気だけは止めてください!」

 恐らく普通の人ならば、嫌悪に満ちた目で教皇への暴言とも取れる言葉に激怒するところであろう。
 しかし、フィリアさんは悲しそうに微笑んでいた。
 それにどんな意味があるのかは、わたしには分からなかった。

「アメリア様。神は全てのものに平等なる幸せを望んでおります。そして、その幸せを勝ち取るために人々が動かなくては神も動けないのです。どうか、生きることを諦めないで下さい。そのお力で教皇ゼロスの狂気をお留めになってください」

 それはまるで、ゼロスさんのお心を知っているような口調で。
 そういえば、フィリアさんとゼロスさんが王宮に登ったのは同じ時期だったと聞いたことがあった。
 もしかしたら、そのときにゼロスさんの事を知ったのかもしれない。
 しかし忠実なる神の僕であるはずのフィリアさんが、何故わたしと同じ事に陥らなかったのだろうか。何故、彼女は神のお心に反するようなゼロスさんの行動を黙ってみているのだろうか。
 わたしには、分からなかった。

「フィリアさんは…?」

 聞くと、やはり悲しげに微笑んでいた。

「私も、忠実なる神の僕であるアメリア様に懺悔いたしましょう」

 そうしてフィリアさんは、にっこりと笑った。
 どうして、どうしてそんなにも悲しげなのか。

「アメリア様には、ゼロスと私が同じ時期に王宮に登ったことをお話しましたね。私は幾度か彼と神学の授業を共にし、何度も顔を合わせました。そのうちに、常に笑顔でいるその下の憎しみを知りました。ゼロスがこの世の中の全てを憎んでいること。そうして、破滅させようとしていること。…そして、私がそれを知っていることもゼロスは知っていましたが、それでも彼は、私を処刑することはしませんでした。それは恐らく、私が彼に抱いていた恋慕の情を感じ取っていたゆえでしょう。そしてゼロスの思惑通りに、私はその感情ゆえに彼を告発することが出来なかった」

 酷く悲しげだった。
 何故、正反対であるはずのフィリアさんはゼロスさんに惹かれたのか?
 わたしにそれを知ることは出来なかったけれど人が恋に落ちるときは意味などないと、聞いたことがあった。…人の感情などどうにも出来ないのだから。

「私は、私の感情ゆえにゼロスの狂気を止めることが出来ませんでした」

「フィリアさん…」

「けれど私は生きています。生きていれば奇跡を起こすことも出来る。そう、巡礼の旅に出たときにゼフィーリアのリナさんに教えられました」

「インバースさんに!?」

 わたしは、あの生のエネルギーの塊である赤き瞳の女性を思い出した。
 まさか、あのお方に会っているとは。
 だから、フィリアさんはこんなにも強い目をすることが出来るのね。

「生きることを諦めてしまっては、神は起こせるはずの奇跡をも起こせなくなってしまうのです」



      >>20050316 行動ゆえの奇跡。



back next top
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送