けれども確かに正義は存在しているのです。
人々の中に神が存在するように。
そうして、動いてきた人々の小さな力は。
大きなうねりとなって私を突き動かすでしょう。
それは、人々の中にある神の力。
正義と云う名の盲目
そうして、処刑の日は訪れた。
その日、わたしはわたしが率いてきた兵士たちに十字に貼り付けにされた。
下には火をつけるための木々や紙がわたしを中心に円状に広がっている。
周りには、それを見ようとしている民衆の姿が見えた。
ああ、わたしの所為で家族を失ってしまって御免なさい。
ささやかなる幸せを壊してしまって、御免なさい。
わたしは、静かに人々を見た。
兵士が静かに、しかし大きな凛とした表情で言った。
「聖女と名を偽って国民と神を騙した、魔女アメリアよ。最後に何か申されることはあるか?」
わたしは、きっ、と顔を上げた。
「わたしは神の御心のままに行動しその結果、わたし自身が罪を犯していました。でもしかし!自分で自分の命を諦めない、そして神に祈るばかりではなく自らの良心に従い行動することが正義なのだと、そう確信しました。だからこそ、声高々にいえます!」
わたしはすぅっと息を吸い込んで民を兵士を、そうして今は教会の奥にいるゼロスさんを見た。
強い目で強い意思で、わたしは己が行動して認識した正義を叫ぶのです。
「正義は我にあり!!」
国民は声を荒げた。
人々は、憎しみの瞳でわたしを見ている。
「魔女め!」
「まだなお神の名を語るか!」
「わたしたちの家族を返して!」
「早く死んでしまえ!!」
小石が飛んできて、頬や頭に当たっていく。
それでも仕方ありません。
わたしは、右上にそびえる王宮を見ました。恐らく、お父様もわたしが炎に包まれるところを見るでしょう。ゼロスさんの手によって王宮内に幽閉されているお父様。
どうか、幸せになってください。
そうして貴方はわたしを愛してくださったのに、親不孝な娘でごめんなさい。
わたしは、静かに神聖スィーフィードに祈りを捧げた。
「投火!!」
松明が下の木に投げつけられ、炎が広がる。
静かに目を閉じた。
ばぁんっっっ!!
大きな爆発音が聞こえて、は、と目を開けると兵が叫びながら来た。
「ゼフィーリアが!ゼフィーリアが攻めてきた!!」
その言葉に国民は混乱し、逃げようと走り出していく。
わたしはそれを静かに見ていた。助けたくとも、彼らを助けることは出来ない。縛られたまま、彼らを見ながら死ぬことしか出来ない。…それが貴方からの罰でしょうか?神様。
ばぁぁああぁん、ばぁぁぁんッッ!!!
爆発音はさらに大きくなっていく。
わたしは下からの暑さに耐えながら、泣き叫ぶ民の声を聞くことしか出来ない。
と、突然重力を感じて下に落ちた。
誰かが縄を切ったようだ、と後ろを振り向くとそこにはフィリアさんがいた。
フィリアさんはなにかを吹っ切ったように微笑んでいた。
「フィリアさん!?」
わたしがびっくりしたように叫ぶと、フィリアさんは手を前に向けて言った。
「アメリア様、お逃げください!ゼフィーリア王国の永遠の女王は心広きお方。そして、ゼフィーリアの国民の命を幾度となく救ってきたアメリア様ならばきっと受け入れてくれるはずです」
その言葉にわたしはもしかしたら、と思った。
もしかしたらフィリアさんはゼフィーリアと繋がっていて、わたしが今日処刑されることを話し、このようなタイミングに奇襲をかけたのではないだろうか、と。
それでもわたしだけが逃げる訳にはいかない。
わたしを逃がしたことがバレれば、今度はフィリアさんが処刑されることだろう。
恐らく、ゼロスさんはそういう人だ。
「フィリアさんは…フィリアさんも一緒に逃げましょう!!」
しかし、フィリアさんは酷く真剣な表情で言った。
「いいえ。私は行けません」
「何故です!?」
「私は、まだやらねばいけないことがあります」
その酷く強い目は、恐らくわたしの言葉では揺るがないほどの信念。
何かを成し遂げようとするときに必要なものを、フィリアさんはこのとき確かに持っていた。
わたしは瞳を閉じて、そして顔を上げてフィリアさんを見た。
「じゃあ、それをやったら絶対絶対ゼフィーリアに逃げてください!わたし、待っています!!」
「はい。勿論です」
フィリアさんはにっこりと笑ってくれた。
その、生きようとする意思にほっとしてわたしは駆け出した。爆発を止めるためにもわたしは行かねばならなかった。
走って走って走っていく。
その途中で、王宮の中にいるはずの国王様がわたしに向かってにっこりと微笑んでくれた。
幼い頃に小屋に来てはにっこりと微笑んでくださった、とてもとても優しいお父様。
「……」
口が、何かを言う。
音声はわたしの耳に届きはしなかったけれど、確かに昔どおりの微笑みで幸せに≠ニ言っているのが分かって、微笑んだ。
「一緒には暮らせないかもしれませんが…ご無事で、お父様」
わたしは、国民の走る方向とは逆の方向…敵襲のあっている場所へと直行していった。
瓦礫の山が目に映る。
敵の兵はただひた走っていく。
わたしは、それを横目で見ながらもただ走っていった。
と、そのとき強い殺気を感じた。
「魔女アメリア!逃げようとしても無駄だァ!!」
そう叫んだ兵士の剣をわたしはかろうじて避ける。…しかし、手に武器をもっていない。結界術を唱えることは出来るけれど彼の剣をよけながらというのは酷くきつい。
ショートソードでもあれば、逃げることが出来るのに…。
バックステップを取っていったが、途中で小石につまずいて転んでしまう。
「これでお仕舞いだァァァッッ!!」
わたしは咄嗟に目を閉じていた。
がちんッッ!
強い、金属が合わさる音が聞こえてわたしは目をあけた。
其処には黒い髪を立てている男が剣を受け止めていた。
…ゼフィーリア五聖のうちの一人、ルークさん!!
ルークさんは剣を弾くとみねのほうで兵士を叩いた。華麗な動きだ。そうして、わたしの手を引っ張って起き上がらせてくれた。
「アンタが、聖女アメリアだよな?」
「はい…そうですけれど」
すると、ルークさんはとても楽しそうな表情をした。
「そうか…ゼルガディスはこうゆうのが趣味なのか」
その言葉の意図がわたしにはわからなくて、首を傾げた。
ルークさんは、腰に二本ざしにしていたショートソード抜き取って貸してくれた。
「これがあればアンタなら行けるだろ?ともかく、事情はフィリアとゼルガディスから聞いている。ゼルガディスは端の向こう側で馬に乗って待っている。ともかく行け」
わたしは、ぎゅぅっと借りたショートソードを握るとにっこりと微笑んだ。
「有難う御座います、ルークさん!神のご加護がありますように!!」
そうして、駆け出した。
人々は奥へ奥へと駆ける。
わたしが逆方向へと向かっていくと途中で見知った子供が兵士に襲われそうになっているのを見つけ、思わず走っていた。
振り落ちる剣を受け止める。
「アメリア様ァァッッ!!」
わたしは微笑んで、剣を弾くとそのまま回し蹴りをした。
その子はにっこりと微笑んでくれた。
「さぁ、もう行きなさい」
「アメリア様!お母さんがね、アメリア様が魔女≠セなんて嘘だって!皆、アメリア様の事を信じているよ!だから、幸せになって!!」
その言葉が嬉しくて、わたしはにっこりと笑った。その目の端に涙がにじんでいるのを感じながら。
「有難う御座います!!」
わたしは、そうして走り出していた。
誰も死ぬことの無いように。
ルークさんから借りた剣でわたしに襲い掛かる兵や逆に戦えない民を襲っている兵を撃破しながらも、ゼルガディスさんが待っているという郊外の橋へとひたすら走っていった。
罵倒されながらも何とかたどり着いた其処には、ゼルガディスさんが漆黒の毛並みを持った馬に乗って静かに待っていた。
わたしは息を切らしながらも其処に行くと、やっぱり無愛想な表情のままでわたしを見た。
「無事だったようだな、アメリア」
「ゼルガディスさん!」
わたしがそう言うと、ゼルガディスさんはやっと微笑んでくれた。
やっぱり、とってもとっても優しい人。
「ゼフィーリアはお前を歓迎する。さぁ、馬に乗れ」
馬に乗ると爆発音が響いているセイルーンを見た。
そうして、離れていくセイルーンを一度見て二度と見ることは無かった。
>>20050323
大脱走ほどでもなく。
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