実験のため部屋にこもると宣言した白蛇を部屋に置いて、これより家庭教師から勉強を受けるのだというアズリエルと別れた。
 とりあえず時間が出来たので仕事の有無の確認を含めアメリアの元へ報告に行こうと、彼女の執務室を訪れる。
 ノックし中へ入ると、書類を見ていたらしいアメリアが顔を上げた。

「今、大丈夫か?」

「ええ。急ぎの仕事をしているわけではないので」

 にこりと笑みを作るアメリアは立ち上がり、話を聞きがてら休憩にしましょうと続き部屋の扉を開き、ソファに座るように俺を促した。
 促されるままソファの下手に座ると、アメリアは休憩用に置いてあるのだろうか慣れた手つきで小さな棚からコップを取り出し俺の前と向かい合わせに置くと、ティーポットを取り出し保温機からお湯をそれに流し入れ、紅茶の葉をさらさらと入れている。
 そうして、俺の目の前にあるコップと向かい合わせにあるコップにお湯を入れると、テーブルにティーポットを置き彼女は座った。

「アズリエルの体、通常の状態に戻りそうですか?」

 俺が言いたいことの目星をつけていたのだろう、彼女はそう切り出した。

「ああ、後は白蛇に任せるだけだ。あれは人体の仕組みに精通しているしアンタも知っているだろうが白魔法に関しては天才的だからな、大丈夫だろう」

「ええ。姉さんの白魔法に関する知識や技術に関して未だに太刀打ちできませんもの。……ところで、ゼルガディスさんは姉さんをよくご存知のようですが以前お会いしていたのですか?」

 その言葉に、そういえば以前白蛇と会っていたことを話していなかったなと思った。
 白蛇がここに来たとき話せばよかったのだろうが、タイミングが悪かったのだろう。彼女自身も忙しかったし俺の思考も新しい情報を精査することでそこまで気を回す余裕もなかった。

「ああ。アンタ達に会う前、レゾの狂剣士として奴の手足となって各地を回っていたときだったがな」

 俺がレゾの狂剣士と呼ばれた頃どのような行いをしていたのか知っているアメリアは、口を開きかけためらうように閉じると、俺に聞いた。

「……姉さんが何をしていたのか、聞かないほうがよいですか?」

「そうかもしれんな、アンタの場合は」

 彼女の性格を考えそう答えると、白蛇が何をしていたのかおぼろげに想像できただろう悲しげに視線を下に向けて少しの間黙っていたが、切り替えるように俺を見た。

「アズリエルの体について、詳しく聞かせてください」

 その要請に応じるようため、先ほど白蛇から説明された内容を今まで集めた資料や白蛇がアズリエルに電圧を流して得たデータも踏まえつつ話す。
 根本的な治癒は出来ないという話になると、アメリアは残念そうな顔をしたがとりあえずはしょうがないですね、と呟いた。

「一時的にしろ、命を脅かすような状況から脱出できるということについて喜ぶべきですもの」

「すまないな、俺のせいで」

「いえ、ゼルガディスさんのせいなんかじゃないです。どちらかといえば、こういう事態も予測できたのに何の手も打たなかった私のほうが悪いですし」

 そんな風に答えるアメリアの表情は至って普通で、本当に俺のせいだとは思っていないようだった。
 紅茶を一口飲みさて部屋に戻るかと思ったとき、そういえば目の前にいる人間を女性として捉えなければいけないのだった、と思い出しふと思いついたことを口に出す。

「アメリア、俺と二人で出かけないか?」

 その言葉に、アメリアは時を止めたように目を見開き俺を凝視していた。
 恐らく俺から誘いの言葉が出るとは思っていなかったのだろう、落ち着いた言動を見せるようになった今のアメリアにしては建て直しに数秒かける。
 そうして思考の再起動が完了したのだろう、彼女はにこりと笑みを作った。

「それはデートということですか、ゼルガディスさん?」

「一応そのつもりだが」

「まぁ、明日は空から雪でも降ってくるんでしょうか?」

 大げさに驚いたようなそぶりを見せて、そんな戯言を述べたアメリアはほんの隙間に今までの笑顔とは違う――なんといったらいいのだろうか、子供っぽいようなそれでいて無邪気に嬉しそうな笑顔を浮かべていて。
 なぜだか無意味に胸がざわめいた。
 その胸のざわめきは俺にとって理解しがたいもので、とっさにそのざわめきを潰すように声をかける。

「で、アンタは誘いに乗ってくれるのか?」

 穏やかな今の彼女らしい表情を浮かべたアメリアは、返事をした。

「いいですよ。グリア王国の第三王子が来る前に一日休みを貰おうと思っていたんです。――ゼルガディスさんはご予定ありますか?」

「いや、俺は基本的にアンタのゴーストライター的な仕事以外は決まった用事がないからな。大丈夫だ」

「そうですか。じゃあ二〜三日の間に休みが取れると思いますが、決まったらゼルガディスさんに言いますね」

 ぽんと手を叩き楽しげに言うアメリアを見て、そういえば彼女は近頃忙しすぎて城下町へお忍びで下りることも出来ていなかったなぁ、と思い出した。
 アクティブで民のことを重要なこととして捉えているアメリアにとってしてみれば、城下町へ行くことは楽しみなことだろう。
 じゃあ、言うことも言ったしお暇しようかとティーカップをテーブルの上に置こうとすると、アメリアが何かを思い出したようにぽんと手を打った。

「そういえば、防衛大臣がゼルガディスさんにぜひ新法の原案を見て欲しいって言っていましたよ?」

 その言葉で、アメリアにとお見合い写真を押し付けられた時に、防衛に関しての新法を書き上げている最中で出来上がったらぜひ見て欲しいと頼まれていたことを思い出した。

「ああ、そういえば約束したな。今は防衛大臣に会っても平気か?」

「公務においてはその法案につきっきりなはずなので、大丈夫だと思いますが」

「そうか、ならば今から訪ねてみるか」

 新たに用事もできたしティーカップをテーブルの上に置くと立ち上がり、じゃあコップよろしくなどと気の効かない台詞を吐いて彼女の前を後にした。



      >>20090311 ナーガさんのあれは例によって例のごとく、です。



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