それから数日後。
 クティオリレスがセイルーン城に滞在することによって、多少だが俺の生活パターンも変わった。
 いつも朝食はなぜかアメリアたち一家に割り込んで取っていたのだが、そこへクティオリレスが入ったので俺に関して下手な噂が流れないようにとアメリアが気を使い別に朝食をとることになり。
 ここ最近はアメリアと一日に一回は仕事や他愛もないことなどなにかしら話していたのだが、上記と同じ理由によりそれもなくなった。
 まぁ、逆を言えばそれ以外はいつもの行動パターンとまったく一緒ということなのだが。
 というわけで、行動パターンを変えない俺はのんびり中庭で冒険小説でも読もうかとセイルーン城内の廊下を歩いていたのである。
 すると、目の前に生活パターンを変えさせた人物がいた。後ろに、緑の目の剣士を控えさせ。
 とりあえず災難は避けて通れが信条の俺としては差しさわりのないお辞儀だけをし、過ぎ去ろうとしたのだが。

「挨拶の一つも出来ないのかい、君は」

 相手のほうから勝手にいちゃもんをつけてきた。
 俺は顔を顰めながらもすでにアメリアの友人として紹介されているのだからと、彼女に迷惑がかからない程度の返答をする。

「それは申し訳ありませんでした、グリア様」

「仮にもアメリアさんの友人なのだから、きちんとして欲しいものだね」

 実際、ゴーストライター的な仕事をしていると明かしていないのだから、俺はセイルーンとはなんら係わり合いがなく目の前の権力しか力の持っていない男に敬語を使う必要などこれっぽっちもないのだが、アメリアの体裁を保つため敬語を使うと、クティオリレスは調子に乗ったのかふんっと鼻を鳴らして偉そうにそう言った。

「アメリアさんにはどのぐらい迷惑をかけているんだ?」

 さっさと会話を切りたかったのだが、クティオリレスは俺にそう質問した。
 迷惑とはどのあたりを指しているのだろうか、と余計なことを言ってしまう可能性を封じるため阿呆のふりをして、彼に問い返す。

「迷惑とはどのことを指しているのです?」

「察しが悪いな。セイルーン城に滞在している期間だよ」

 セイルーン城の侍従や臣下にアメリアの不利になるような発言をするものは居ないと思うので、俺がここに結構な日数滞在しているという情報は新聞等から集めたのだろう。
 嘘をついてもばれれば面倒になるだろう、とその辺りは答えておくことにした。悪者は俺になるだろうし。

「そうですね、半年ほどでしょうか」

「半年も!」

 クティオリレスは俺の言葉に対し、大げさに声を張り上げた。
 わざわざ相手の嫌味を言う機会を与えてしまったので、表面上はなんとも思ってないような無表情を心がけているが、心の中で溜息を吐く。

「地位も名誉もない君に半年も金と手間を費やすほどアメリアさんもセイルーンも暇じゃないんだよ。アメリアさんは優しいから君がぐだぐだと半年も滞在することを許しているんだろうけど、そうなる前に辞退すべきだったんじゃないのか?」

 言っていることは正論のはずなのに、余計な装飾のほうに力を込めて発言しているため、嫌味にしか聞こえない。
 嫌味に聞こえるよう話すことも才能か。
 べらべらと喋らせたまま終わりにしてもよかったが、このまま俺がまったく関係のない第三者に従いセイルーン城を出て行くのは望んでいない。
 面倒ではあるが、望みを達成するには衝突も必要なのだろうと権力と金に縋っているクティオリレスを見た。

「グリア様の意見は確かに客観的視点としては正しいですが、これは私とアメリア姫が話し合って決めたことでありフィリオネル殿下からも了承を頂いていること。セイルーン王家でもなく、王家に使えている身でもない貴方に言われる筋合いのないことです。……もっとも、貴方が婿養子に来るのであれば話は別でしょうが」

 淡々と意見を述べた俺に対し、クティオリレスは腹立たしげに歯を噛み締めて睨みつけてきた。
 一切怖さを感じないが。

「貴様みたいな身分の低い奴が……! 僕の言うことをおとなしく聞いていればいいんだっ」

「申し訳ございません、私には貴方の言うことを聞く理由が何一つありませんから。――それだけでしたら、これ以上はグリア様の気分を不愉快にさせてしまいますので失礼します」

 感情の見せないような言葉を述べ、一礼だけすると地団太を踏むクティオリレスを尻目に歩こうとする。
 が、後ろに控えていた緑の目が俺を睨みつけていた。
 クティオリレスよりこの控えている男のほうが脅威であろうと、その鋭い目から全身からあふれ出す殺気から認識する。
 もっとも、彼は忠実な部下らしくクティオリレスがプライドを傷つけられたと感じても動こうとはしなかったので、足を止めず目的地である中庭方面へ向かった。



      >>20090827 有能な部下と無能な上司?



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