玩具




 私は久しぶりに竜の姿となって空を飛んでいた。
 背中にはジラスさんとグラボスさん。そして、やんちゃな子、ヴァルガーヴをジラスに抱っこさせて。



 それは突然のことだった。
 私が骨董屋で、店番をしていると一通の手紙が来た。差出人はセイルーン皇女。瞬時に高いところに登って正義を叫びながら頭から着地するものすごく頑丈な少女を思い出し、封を切った。
 信じられないような内容が書いてあった。

『リナさんとガウリィさんがやっと結婚までこぎつけたんです!!私が全責任を持ってセイルーンで挙式をあげることにしましたから、もし都合がよければセイルーンまで来ちゃってください♪あ、ジラスさんとグラボスさんとヴァルガーヴさんも一緒ですよ!!あ、あとゼロスさんも見つけたら言っておいて下さいね♪』

 赤竜の騎士の妹で、近頃はデモン・スレイヤーと名高い強い赤い目をした少女と、剣と姿格好は一流、でも脳味噌はくらげ以下で、彼女の相棒&自称保護者の晴れた日の柔らかな青い目をした青年を思い出す。
 私はそこで脳天がひっくり返るかと思った。
 リナさんは超絶的な照れ屋さんで乙女の恥じらいと称して竜破斬をぶちかますし、ガウリィさんはいつもいつも大切なことを忘れていて、リナさんにアプローチするなんて想像もつかない。
 うーん…プロポーズの場面見たかったかも…。

「姐さん?どうした??」

「ああ、リナさんとガウリィさんが結婚することになったんですって。ジラスさんもグラボスさんも招待されていますから。あ、では少しお店をお休みにしなくてはいけないわ」

「ええ!??いつ行く?」

「すぐに旅立とうと思うの。私の羽で飛んでいくのは簡単だけれど、リナさんの晴れ姿に参加したいし、少し休みたいので。いいかしら?」

「わかった」

 ジラスさんはびっくりしたようにそれを聞いて、二階へ上がる。
 準備のためだろう。
 私は小さなヴァルガーヴを抱っこして微笑んだ。



 そういうわけで私は久しぶりに飛んでいた。
 やっと、セイルーンのある土地についた。私は人のいないところで二人を降ろし、人間の姿に代わる。

「ジラスさん、グラボスさん、少し待っていてくださいね。宿屋の手配をしますから」

 二人の姿は凶暴な魔物のそれと一緒だ。
 私は擬態をしているので大丈夫だが、二人が街中を闊歩していたらさぞや驚いて魔法を打たれまくるだろう。その配慮が分かったのか、二人はこくりと頷いてくれた。
 そんなことを繰り返して、3日ぐらいでセイルーンについた。ふ、私も実力を出せばこんなものよね♪
 門番さんに説明するとアメリアさんが皇女らしい服を着て私を出迎えてくれた。

「フィリアさん、お久しぶりです!あ、ヴァルガーヴさん、孵化したんですね♪」

「ええ。順調に育っていますよ。あ、主役たちはどうですか?」

「ふふふ、みっちりと稽古をつけているところです♪」

 その笑顔はただならぬものを感じさせた。うーん、アメリアさんは二人の仲のことで妬きもちしていましたからね。私達は、アメリアさんに案内されて、ゲストルームをあてがわれた。
 ジラスさんとグラボスさんは、別の部屋。私とヴァルガーヴとアメリアさんが王室内ではちょっと小さめ(らしい…十分大きいと思うけど)の部屋にいた。

「うわー。ヴァルガーヴさん可愛いですね〜♪」

「ふふ、今はやんちゃ盛りで3人で手を焼いているところなの」

 小さい手でぺたぺたアメリアさんに触れる。知らない人だから興味を持っているのだろうか?と、私はふと思った。

「アメリアさん、ゼルガディスさんは来るみたいですか?」

 二人の仲を思い出した。ちょっとやきもちしてるアメリアさんや、しょうがないといいながらもアメリアさんを守っている二人はとてもお似合いだと思った。ただ、闇を撒くものとの対戦が終わったあと、ゼルガディスさんが一人で旅に出たと聞いて、私はリナさんとガウリィさんを見ているアメリアさんな気分になったりもしたが。
 彼女は悲しそうに微笑んだ。

「手紙が着たんです。外界の遠いところまで行っちゃってるみたいで、戻って来れるような距離じゃないって書いてありました。…でも、外界から此処まで手紙が届いたってことで良しとしなくちゃいけないですよね!」

「そうですね。もし、ゼルガディスさんの手紙が来なかったらリナさんが暴れてドラスレでも撃ってしまうかもしれませんからね」

「……本当に良かったです」

 くすくすと笑った私にアメリアさんは青ざめた顔で肯定した。自分の都市が竜破斬でやられるところを想像したのだろう。…末恐ろしい。

「あ、でゼロスさんには会いました?」

「ああ…あの生ゴミ魔族はリナさんが倒した赤眼の魔王と覇王の部下の余波のため、しがない中間管理職の役目で事後処理をしている、とゼラスさんからお聞きしましたから、ひょっこり顔を出すかもしれません」

 アメリアさんが固まっている。

「……つかぬ事をお伺いするんですが、ゼラスさんって、ゼロスさんの上司の…?」

「ええ、獣王ゼラス=メタリウムさんよ?時々骨董屋に来て一緒に香茶を飲みながらお話をするんです。とてもいい方ですよ?」

 本気で固まっている。
 それもそうかもしれない。元、とはいえ私は赤竜王に仕えてきた巫女。敵であるゼラスさんと香茶を飲みながらゆったりとお話しているなんて言ったら昔の私ならモーニングスターを振り回しつつ神魔法の一発や二発ぐらいはぶちかましているかもしれない。

「フィ…フィリアさん…悪いものでも飲んだんですか!?腕のいい魔法医なら私知っていますから行きましょう!!」

「いいえ。本当にいい人だと思うの。あそこまで骨董の話についていってくれる人はなかなかいませんし、その上、降魔戦争以前から生きていらっしゃるから、いろいろな話を聞けるの。あんな生ゴミ魔族の生み親だなんてとても思えないくらい…まぁ、一癖も二癖もあるかたですけれど」

 そう言うと、アメリアさんはやっぱりまた固まっていた。

「フィリアさん…自分の種族とか覚えていますよね!?」

「ええ。私は、黄金竜の元巫女。今は骨董屋店長。でしょう?」

 きょとんと、そう軽く言い放ったフィリアにアメリアはびしぃぃっっと指を指す。

「ならなんで!?ゼロスさんはともかく、獣王とまで仲良くしているんですか!??」

「…ゼロスはともかくって、あの人と一番仲良くしたくないんですが…。私は、気がついたんです、私は神族に属され、あなた方人間よりは長寿で、自然界にも優しい存在ですけれど、神ではないということに」

「どうゆうことですか?」

 アメリアさんは不思議そうな顔をしている。当たり前の行動なのだろうか?それとも、ゼルガディスさんらへんなら気がついてもらえるのだろうか。わからないけれど。

「私は世界を守ろうとする立場にあります。それは種族の関係上しょうがありません。でも、私たちの神に対する信仰や行動はたかが人間に毛が生えた程度で、…まぁ、人間よりは死活問題になるのでしょうが…、所詮それだけなんです。現に私の感情には、負の部分もあるでしょう?」

「…それは、巫女という立場を捨てる、ということですか?」

「ふふ。もう、捨てているではないですか」

「あ」

「でも、そうゆう問題じゃないんです。黄金竜が古代竜を滅ぼしたように、私には怒りや憎しみや、…いろいろな感情が渦巻いている。全ての混沌となる母は、全部を白黒きっちり分けてくれたのではなく、全部灰色にしてしまったんですよ。ちょっと黒い灰色かちょっと白い灰色か、あなた方のようにどちらでもない灰色か。それが、あの方には楽しいのかもしれませんけれどね」

 私はくすくすと笑った。アメリアさんはいぶかしげな顔をしている。そうだろう。彼らと旅をしていたころより私の態度は柔軟になっている。人間に対しても、魔族に対しても。

「ですが、私の罪は変わりません。ヴァルガーヴには、やはり、ガーヴから受け取った魔族も混じっています。ですから、私はヴァルガ―ヴには自分で、どのくらいの灰色になるのか、決めて欲しいのです。…というわけで、ゼラスさんとも交流を取っているんですよ。あの人は部下をつかいっぱしりにして眺めているのが楽しい方ですから、ヴァルガ―ヴにも直接の危害を加えようとしていませんし、魔族から真実を聞かされても、私は私の真実を彼に伝えるだけです。リナさんみたいにね」

 私はぱちんとウインクをする。
 彼女の生きかたは激しくそして燃えるような赤を連想させる。確固たる信念。それに伴う力。誰にも左右されない思い。私は、リナさんを見習いたかった。
 不意にヴァルガーヴが私に触れた。小さな手。ちょっとだけ生えている角。どれもいとおしく、そして、繰り返されてはいけないもの。

「…フィリアさん、変わったんですね」

「…あの、世界の生ゴミ生きている意味なし、只のしがない中間管理職に、無理やり変えさせられた部分もあるんですけれどね」

「と、云うことは!フィリアさんが人生がどれだけ素晴らしいかをゼロスさんに毎日毎日言ってくれれば、人生やり直してくれると、そうゆうことですね!!」

「何で私が言わなきゃいけないんですか!!」

 私はびしぃぃっと指を指すアメリアさんにそう叫んだ。
 た、確かに、ゼロスにはいろいろ考えさせてもらえる機会を与えてもらいました。で、でもあんな生ゴミ魔族…っっ!!本来なら触れ合いたくもありません。
 そう思っていると、こんこんと、ドアがノックさればたりと、ドアが開いた。
 そこにいたのはかつて旅をした強い赤を持った少女。

「あ〜、本当にフィリア来てたのね〜」

「お久しぶりですっ!このたびご結婚……っっ!!」

 おめでとう御座います、まで言おうとしたときにリナさんのスリッパが飛んできた。あああ、それ、ガウリィさん専用の奴じゃあ…。
 リナさんは真っ赤な顔をしながらどかどかと歩いてきて、空いている席に座った。

「これが、ヴァルガーヴ、ね」

 ごまかすように、ヴァルガーヴに触れる。やっぱり照れ屋さんなところは変わっていないらしい。…本当にプロポーズのシーン見たかったかもしれません…。
 ヴァルガーヴは人見知りもせずに、アメリアさんと同じように確かめるように触れている。その瞳が、どこか安堵したような…そんな風に見えたのは私の気のせいではないと思う。…彼女は全てを背負おうとする人だから。

「んで?ゼロスは来そう?」

「なんで二人して私にあの世界のゴミ魔族のこと聞くんですかっ!!」

 思わず叫んでしまっていた。
 私は、私はほんっとーにあの生ゴミ魔族のこと嫌いなのに!!確かに、いろいろ考えさせてくれましたし、世界の情報も聞かせてくれますし、たまにはヴァルガ―ヴの遊び相手になってくれますし、たまのたまには私を助けてくれたりもしますが…、私にあんなことやこんなことをしてくださったあの方を好きになんてなるはずないじゃないですか!!
 ああああ、思い出せば思い出すほどイライラしてくるぅぅぅ!!
 私は、頭痛を起こしそうになる頭を抱えながら言った。

「あの世界のくずは、リナさんが素敵に倒してくださった覇王さんとこの部下やちょっぴり覚醒してしまった赤眼の魔王の事後処理をしているとゼラスさんから聞いたので来るか来ないか分からないです。っていうか、こんな晴れ舞台に来なくていいと思いますよぉ」

「…そう」

 ふと、リナさんが悲しげな表情をした。
 ゼロスから聞いた言葉を思い出し、ハッとなった。…ちょっぴり覚醒した赤眼の魔王は…リナさんの仲間だったこと。自分で手を下してしまったこと。「僕としてはあのままルークさんに暴走してもらっても良かったんですが覇王様がやったことなので、獣王様的にはあんまし面白くないみたいです」と、いかにも魔族らしいことを言っていた。そして、その後リナさんはデモン・スレイヤーと呼ばれるようになり、それを嫌がっているということ。…全部聞いていたのに。
 私は傷をついてしまった。

「す、すみませんリナさんっ、わたしったらあの生ゴミ魔族にキレて、言っちゃいけないこと、言ってしまいました…」

 すぱーんっっ!

 沈んだ私の頭にガウリィさん専用のスリッパが飛んできた。
 痛くてリナさんを見ると、笑っていた。

「いいのよ。どうせ、ゼロスが笑いながら言ったんでしょう?…それに、あれは私なりに乗り切ったんですからね!」

「そうですよね!ガウリィさんも支えてくれたんでしょうし…っっ」

 またスリッパが飛んできた。あぅぅ…結婚までするんですからそんなに照れることないような気がするんですけど…。



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