火竜王の神殿から、異界の者の形跡を追うために僕は空間を渡っていた。
その途中滅びた1つの街を見つけて、ふ、と擬態を作ってその街中に降り立った。
そこは朽ち果てた廃屋がただ無造作に放置してある場所だった。
けれど、記憶を司るどこかが、痛いと叫ぶ。
脳裏によぎるのは、赤い鮮血と金糸のような髪とそして――優しく微笑む蒼い瞳。
「馬鹿馬鹿しい」
そう、まるで言い聞かせるように呟くと、擬態をかき消した。
愚かな寓話
その夜――と言っても、僕に夜の感覚など無いも等しいのだが――リナさんたちの気配を探り当てて精神世界から覗き込んでみると、やはりリナさんとガウリィさんがいつものように食事をこなしていて、その隣でフィリアさんが嘆いている。ゼルガディスさんはややつまらなそうに香茶を飲みつつ、それにアメリアさんが懸命に話し掛けていた。
恐らく、この人たちにとっては普通の風景なのだろう。
何故だろう。どこかで同じような風景を見たような気がして、ずきん、ずきん、と何かが痛み出していた。
僕はそれを押さえつけるように擬態を作り上げた。
「ゼロス!現れないで下さい!!」
途端にフィリアさんの悲鳴のような声が聞こえて、僕は気にするまでも無く座る。
というかフィリアさんの事を気にしていたらキリがないので無視する。
「香茶を1つ」
返事が聞こえて、直ぐに出てきた暖かそうな湯気が立った香茶に口をつける。
まぁ、大した意味は無いのだけれど気分的に合わせてみた。魔族には固形物を摂取する事など必要ないのだから。――そういえば、黄金竜も確か人間のように頻繁に固形物を摂取しなくてもよかったような気がするのだが――もしかしたら、フィリアさんは若い竜ゆえに食事の回数が比較的多いのかもしれない。…それよりも、ただの趣味の一環のような気はしなくもないけれど。
「はぁ〜、お腹いっぱい!」
リナさんがようやく満足そうにナプキンで口を拭くと、フィリアさんがまるでムンクの叫び(といってもこの世界にはそんなものは存在しないのだが)のような表情で、がま口財布の中身を見て涙を滝のように流していた。
「ああああ、私のお給料がぁぁぁ」
竜族の給料性というのは初耳だったのだが、考えてみれば食事があるわけでもなく、僕らのように擬態を作る黄金竜は一体何処でなにを買い物するというのだろうか。
…フィリアさんというのは、僕が知っている黄金竜の中でかなり特異な性質のような気がした。
「まぁまぁ、状況的に報酬もらえそうに無いんだからこの程度いいじゃない♪」
「…リナとガウリィの食欲にこの程度も糞もないと思うが」
「この程度よ、このて・い・ど!」
リナさんはいつものようにやや乱暴な口調でそんなことを言うのだが、彼女にかかってしまえば魔族も竜族も形無しである。
まるで、テンポのよい漫才を見ているようなこの風景に、何かがダブって収まっていたはずの痛みが浮きがってきた。
そう――こんな風に笑っていた。
僕に決して恐れを感じず、彼らは。
そう、こんな風に。
香茶を飲んで窓の外に浮かび上がる月の黄色い光はそう、まるで金糸のような髪を持った彼女の――。
「…?ゼロスさん?」
アメリアさんはまるで零れ落ちてしまうんじゃないか、と思えるくらいの大きな瞳をじぃっと僕に向けて見ていた。
僕はいつものように猫のような目のまま、表情を変えずに先を促した。
「なんですか?アメリアさん」
「なんだか、ゼロスさんらしくないような気がして」
僕はその言葉にくすりと笑いたくなった。
どこか分からない謎の神官って言うのが僕のスタンスなのに、アメリアさんにまで見破られてしまうような表情の動きをするなんて、ありえない。
もしかしたら火竜王の神殿へ行くためのあの列車を見てから――火竜王の神殿を見てから、とても愚かな彼の記憶が僕のどこかを刺激しているのかもしれない。
それは僕には分からないけれど。
けれど、何故だか彼の話をしたくなった。――とても愚かで、本来ならば恥ずべきはずの彼の話を。
「ああ。火竜王の神殿に行ったときに見た列車で遠い過去の事を思い出しましてね。といっても、厳密的には僕の記憶ではないのですが」
僕はごく自然にするり、とそんな言葉を発していた。
「どうゆうことだ?」
ゼルガディスさんが胡散臭げに僕の言葉に返した。
まぁ、出会いが出会いだったから仕様の無い事なのだけれども。
「えーっと、ちょっとややこしんですが、あの列車が本格的に稼動していた頃――つまりは、1万年前ですかね。その時に一回僕は消滅したんですよ。それで僕を哀れに思ってくださった獣王様の手によって、その時にはじけた僕の魔力と獣王様の魔力を使っていただきまして、今の僕が誕生したんです。つまり僕は魔族には珍しく前世というものがあるのです」
本当にややこしい。
何故、獣王様は僕の事を気にかけてくださるのだろうか。
そう――あんな出来損ないの魔力など集めなくてもよかっただろうに。
「へぇ。でもアンタぐらいの魔族なら、そうそうポカしない限り消滅したりしないんじゃないの?」
「ええ、もちろんです。実際、前世の僕も似たような性格でしたし。…そうです、思い出したついでに前世の僕が何故滅びたのか昔話をしましょう。香茶のおやつ程度にはなると思いますが?」
そう人差し指を立てて提案すると、リナさんはとても面白そうな顔をした。
僕ほどの(と自分でいうのもそれなりに差し出がましい事なのかもしれないが)魔族が滅びるような理由を知りたいのかもしれない。けれど、偶然とはいえリナさんは僕の上司の方々をことごとく倒している訳だから、そんなに気にしなくてもよいような気もしなくも無いけれど。
「面白そうじゃないの!どうせ今日は寝るだけだし、ちゃっちゃと話しちゃって」
その言葉に、痛みを発しながらも何故か思い出す、怒ったように叫ぶ彼女の笑顔が僕の脳裏の中で浮かんでは消えていった。
「では。…1万年前、僕の前世は獣王様の命によりこの付近に来ていたのです。――そして、そこで前世の僕の運命を決める、金色の糸の様な髪と儚き蒼い瞳を持った女性に出会うのです―――」
>>20050330
始まり始まり。
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