遠い遠い昔の愚かな寓話を語りましょう。




      愚かな寓話




 火竜王神殿近くのその街はいつ来ても明るい所だ。
 僕は精神世界で漂いながら思っていた。
 面白いくらいに人があふれ様々な感情が渦巻く、そんな場所。
 我らが王シャブラニグドゥ様とスィーフィードの争いは長く続いていたがその戦いはまるでバランスが取れすぎていてどちらも決定的なダメージを加えることすらも出来ずに、ただひたすら巨大な力を振り回すのではなく今では僕ら中間管理職がせこせこと暗躍するしかないので、一見すれば平和そのものに見えた。
 そう例えばあまり関わりのない人間たちにとっては終わっているようにも見える。争いが無いという事は文明が発展する訳でこの街も例に洩れず、火竜王の神殿が近いこの町はそこで生活している黄金竜達と協力体制をとり、例えば魔力を原動力にして多くの人間や黄金竜を運ぶような機械や、炎を長く現実世界にとどめて置ける鉱石やその液体から人工的な電気の流れを原動力とした機械で今、夜であるはずの町を煌々とまるで昼間のような明かりで照らし出していた。
 もっとも、そんなことを考えても僕にはなんら意味はないし、僕は僕ら魔族が勝つように何も知らない人間たちを嘲笑しながら暗躍するだけなのだけれど。
 ともかく僕は、獣王様の命令をこなすために擬態を作り上げて、カフェテラスで香茶を頼んだ。

「まったく、獣王様の人使いの荒さには涙が出てきます」

 深いため息と共に思わず呟いていた。
 というのも今回の命令は、覇王様の命令をやっとこなしたと思ったら休む暇も無く獣王様直々の命令が下ったためだった。
 大体にして覇王様にも部下がいるのだから、それを使えばいいのに何故僕が借り出されるのか。手際が悪いにも程がある。
 まぁ、所詮しがない中間管理職でしかない僕は何も言えないのだけれど。

「さぁて、と。ともかく、お茶を飲んで待っていましょうか」

 のんびりお茶を飲んでいる仕草を見せていると爆音と共に地響きのような音が遠くから迫ってきて、ようやく来たと僕は微笑みながらそっちを見ている。
 すると、その音の元凶であり僕が待っていた4人の旅人がこちらに向かって走ってきていた。

「―――ゼロス!?」

 酷く驚いたように、舞うように動く長い栗色の髪にまるで我らが王のあざな…赤眼を表したように赤い瞳を持つ矮小なその身に人間では知っている筈の無いあのお方≠フ存在を偶然にとある事件で知り、その禁呪を唯一使える女性――リナさんが、叫んでいた。
 僕はにっこりと微笑んで香茶をすすった。

「今日和、皆さん。お元気のようで何よりです」

「何より、じゃあないだろう。お前が現れるということはなにか企んでいることに他ならない」

 淡々と冷静な口調で話す、まるで針金かなんかを入れているんじゃないのだろうかと思わせるような黒い髪に、三白眼ともいえる切れ目の黒い瞳に真っ白な魔方陣で強化された布服を纏っている男性――ゼルガディスさんが、吐き捨てるように呟いた。

「いやぁ」

「照れるな、そこ!」

 怒涛の突込みを入れるリナさんに後のほうから走ってきた、緩やかな曲線を描いたおかっぱの黒髪にまるでこぼれるような黒い瞳を持ったとある地方の特殊な巫女服を纏った女性――アメリアさんが、あ、と僕に指を指した。

「あれ!?ゼロスさんじゃないですかぁ。お元気ですか?」

「ええ♪」

「それはともかく飯食おうぜ」

 まるでどこかの極上な糸のような金色の髪に、晴れ渡った空色の瞳をし、同じく空色の胸甲冑その他を纏い、その腰には以前にリナさんが召喚した烈光の剣を携えた男性――ガウリィさんが、いつものようにぼぅっとしたような気の抜けた口調で、そう提案した。
 そうして、目的の人たちと合流できた僕はともかく宿屋まで付いていく事にした。
 前の事件で関わった彼らがまた今回関わっているというのは、ひとえに彼らの強(凶?)運によるものなのであろう。
 ともかく僕は彼らに便乗して、それを探らなくてはいけない。
 ――火竜王に使えている黄金竜たちの不穏な動きを。

 一通り戦争のような食事(リナさんとガウリィさんのみだが)を終えた彼らに、僕はまるで何も知らないように聞いた。
 無論、僕の正体を知っている彼らにはそれが大した意味を持たないことは知っているが。

「――それで?リナさんたちはどうしてここに?」

「ああ、ちょっと、手紙貰っちゃってね。ほら、アンタと一緒に会ったと思うんだけど、ミルガズィアさん。丁度この辺りにきてるらしくってね、あたし達に頼みたいことがあるんだって。んで、来たって訳よ」

 ミルガズィアさん――彼はこの辺の…火竜王に使える黄金竜ではなく、水竜王に使える黄金竜の長老の位置に属する者だ。
 とある事件で僕とミルガズィアさんは1000年ほどの知り合いであるのだが、彼は他の黄金竜とはまた異色で僕を恐れながらもそれでも堂々としている。その様は怯えた色で僕を見ているほかの長老たちなんかよりもいっそ清々しいものだ。
 しかし、ミルガズィアさんが竜達の峰から結構離れているこの土地まで来ているとは――。

「なるほど。でも、リナさんの手を借りなくてもミルガズィアさんなら解決できそうな気がするんですけどね」

 竜族の力は、人間たちと比べて比較にならないほど高い。
 そこら辺の純魔族でも彼らにはそれなりに苦戦させられるであろう。神族と名乗るだけあって高い魔力と戦闘能力は馬鹿に出来ないものがある。
 それを、わざわざ人間の中では強いほうに属するが自分達よりは確実に弱いリナさんに助けを求めるとは一体。

「まったくだわ。でーも!オリハルコンとかの高い鉱物が報酬としてもらえるかも知んないじゃない?行ってみる価値はあるってもんよ!」

 竜達の峰はほぼ荒野である山の中に存在しているのだが、普段竜達がすんでいることもあって人間たちが荒らす事も無い。それゆえか、オリハルコンなどという稀少で魔力の高い物質がそこら辺にほいほいあったりするのだが――さすが金にがめついリナさん。前に言ったときにそれを狙っていたのか。
 無論、彼女の魔道士としての好奇心もあいまっているのだろうが。

「なるほど」

 僕は呟いた。
 んで?と、リナさんは先に促す。

「今度はあたしたちをなんのダシに使おうっての?」

 はっはっは、と僕は笑って人差し指を唇に当てた。

「それは秘密です」



      >>20050406 ゼルの元の姿の表現ってどこにあったかなぁ。黒鳶色だったような気がしたんだけど…。



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