愚かな寓話




「ミルガズィアさん、お久しぶりです」

「何故お主がここにいる――?ゼロスよ」

 警戒したような口調で僕に聞くが僕は微笑みを貼り付けたまま。
 人差し指を当ててお決まりのポーズ。

「いやぁ、それは秘密です♪」

 その奥でリナさんが戸惑っているようだった。

「え、ちょっとこれってゼロスが関わっちゃうようなことなわけ!!?」

「はっはっはっは」

「いやーー!!十中八九依頼料踏み倒されるぅぅぅぅっっ!!」

 意味深に笑い飛ばしてみるとリナさんが涙ながらに叫んでいた。…そういえば前のお仕事のときも、リナさんの依頼者が途中でいなくなったうえに、世界の危機という命題を前にタダ働きしていた。
 3度の飯より盗賊いじめが好きな魔法オタクのリナさんにとって見れば、タダ働きほど虚しく辛いものは無いのかもしれない。商売人の血を引いているとも言っていたし。

「ゼロスさん、一体何を企んでいるんですか!?悪の道へ走るというのなら!!このアメリア、ゼロスさんをしばき倒さなければなりませんッッ!」

 アメリアさんがびしぃ、と拳を作って叫んでいるが、しばき倒すとは言葉が汚くなっている。
 その隣で、ふ、とゼルガディスさんが笑っていた。この人は意外と自分の実力が試せるような機会は好きなようだからいいのかもしれないけれど。

「リナと付き合うと伝説級の事件がごろごろと転がってくるな」

「…話が拡大しているような気がするが」

 淡々としかしどこか困ったように呟くミルガズィアさんに僕はニコニコと言った。

「これも僕の人徳って奴ですかねぇ?」

「それは、明らかに違うと思いますが」

 海の瞳を持つ女性は、さくっと僕の言葉を否定してくれた。
 ここで否定してくれなければ僕がボケた意味は皆無に等しいのでよかった。
 と、こほん、とミルガズィアさんが咳をしてわざと話題を切り替えた。
 もうそろそろ本題に入っておきたいのだろう。

「この娘を、お前たちの旅に連れて行ってほしい」

 その言葉に、気合を入れて聞いていたリナさんは酷くあっけにとられたような表情をした。
 まぁ確かにミルガズィアさんの頼みで、この僕も関わってくるとなるともっと困難なものを想像するだろうけれど。

「――へ?そんなことなの?もっと、ややこしい…例えば、魔王が本格的に動き出したとかの神託が下りたからぶちのめして欲しい、とかだと思ったわ」

「その様な神託が下りれば、我らや赤の竜神様が動く。――いや、だがもっとややこしいかもしれん」

「え?だって、この子を連れて行けばいいんでしょ?彼女は黄金竜のようだし、大きな戦力になって盗賊をしばき倒すのにだって楽になるじゃない」

「確かにこの娘は黄金竜の中でも強い力を持っている。しかし――いや、ここで言うのはよそう。ともかく連れてってくれ」

 不思議そうに聞くリナさんに対してミルガズィアさんは言葉を濁した。
 恐らくは濁した場所――つまりは、この海の目をした少女に関する何かで火竜王に使える黄金竜たちの動きが不審なわけがあるような、そんな気がした。

「ふぅん。かなりメンドクサイ事を抱えているみたいね。まぁ、あの中間管理職でお役所仕事しかしないゼロスがここにいるって時点で予想はついたけど。――どうしようかしらね」

 そうリナさんがはぁ、とため息をつくとアメリアさんがバックに炎を従えて拳を振り上げていた。
 ふむ、正義好きのアメリアさんならば、言葉を濁すリナさんに苛立ちを覚えてもしょうがないのかもしれない。

「リナさん!見捨てるって言うんですか!?」

「ンな事言ってないわよ。ただオリハルコンどっさりだけじゃあ、割に合わないってこと」

 もっともな事だ。
 命が幾つあったって足りない依頼であることは、僕がいる時点でほぼ予測がつくのだから。
 とてもつもなく弱く脆い人間ならばここで引いておくべきであろう。オリハルコンだけでは足りない。僕の言う言葉ではないけれど命あってのものだねなのだから。

「さすがはリナだ。金に意地汚い」

 そんなゼルガディスさんの言葉はどこか呆れたようなものだったが、僕としてはただのお人よしよりもリナさんの言葉のほうが、人間の真実そのままを開けっ広げに言っているので、納得もするしその言葉をそのまま受け止める事が出来る。わざわざ裏を疑るほうが大変なのだ。

「うっさいわね!ゼル、何事にもお金ってのは便利で役に立つのよ!!」

 びしぃっと指を指して宣言しているリナさんに、ミルガズィアさんはやはり表情を一つも変えることなく言った。 

「わかっている人間の娘よ。その働きに見合う報酬を用意せねばなるまい。この件が解決したならば、我らとエルフ族の力を結集した道具をお主たちに渡そう」

「へぇ。それはいいわね」

 なるほど…。人間の身に竜族とエルフ族が力をあわせて作ったものはいいだろう。リナさんはそれを満足そうに聞いていたのだが、アメリアさんが不思議そうにリナさんを見て言った。

「どうゆうことですか?」

「黄金竜やエルフ族の魔力がこもったもの――例えば、剣でも防具でもマジックアイテムでも、俺たち人間が作り上げるものよりは遥かに力のこもったものが出来る。無論、本来ならばエルフ族にしろ黄金竜にしろ、自分たちの力で解決できるものをわざわざ魔力を込めた武器などを作る必要も無く希少性も高い――故に売り払えば破格の値がつくし、俺たちのように旅をしているものであれば心強い事に変わりは無い」

 人間の身にしてははるかに長い時を生きているゼルガディスさんはさらり、とアメリアさんに説明する。

「なるほど!」

「俺はよくわかんなかったぞ?」

 ガウリィさんはいつものようによく分からないといった表情で、首をかしげる。うーん、彼の感情を見る限りはそんなに馬鹿なような気はしないんだが…。このメンバーで一番何を考えているのか分からないのはガウリィさんだと僕は思う。最初に僕の正体を魔族だと見抜いたのも、また彼だったのだから。
 しかし、リナさんはガウリィさんにやや呆れたような視線でぱたぱた、と手を振った。

「アンタはいいのよ、ガウリィ。――その話のったろーじゃない!でも、貴方はここから離れること賛成しているの?」

 リナさんが彼女を見ると、彼女はじぃっと海のような目を向けて取り乱す事もなく真剣にリナさん達を見ていた。

「はい。ここにいては危険だとミルガズィア小父様は言っていますし…小父様の言葉は信用に値します。だったら、何もせずに朽ち果てるよりも何らかの行動を起こしたいのです!」

 まるで初めて見たときに、神に祈りを捧げていた女性とは似ても似つかぬ発言。
 最初はまるで外に出る事すら恐れる可憐な女性かとそう思ったのに。そちらのほうが僕としても動かしやすいという利点もあったし。
 等と思っているとリナさんは彼女ににっこりと微笑んだ。

「オーケー、そうゆう考え方好きよ。自己紹介がまだだったわね。私はリナ。この黒髪の目つきの悪いあんちゃんがゼルで、むかつくぐらいに胸を強調したのがアメリアで、さっきっから何一つ話についていけてないのがガウリィ。よろしく」

 指を指して全員の特徴と名前を述べると、彼女は深くお辞儀をした。

「どうぞよろしくお願いします」

「はいよろしく。ともかく街に行きましょ」

 そう言ってリナさんは入り口を指差した。



      >>20050420 依頼内容の具体的説明でした。



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