愚かな寓話




 小屋の外に出ると僕は周りに多くの気配を感じた。
 まったくこういう仕事は面倒ばかりが起こる。破壊活動だけのほうがいっそ簡単であるのに。
 多くのレーザーブレスが僕たちに向かって襲ってくるのが見えて、咄嗟に擬態をしたときに作り上げた何処にでも売っているような杖を振り上げた。
 ぶわん、と周りに結界が貼られて、雨のような光が大きな音を立てて目標物にぶつかる前に爆発した。

「まったく、礼儀のなっていないお客様ですねぇ」

 僕がそう言って、杖を元に戻すと黄金竜たちが周りを囲んでいた。僕にとってはまったく敵でもなんでもないような方々なのだがさすがにリナさん達は驚いたようだった。

「一体どーゆーこと!?同族がなんで攻撃すんのよ!」

 叫んでいるリナさん達を一瞥する。ミルガズィアさんは同族が襲ってきたにもかかわらず、驚いたような顔はまったくしていない。そう、まるで予想していたかのように。

「喋ってる暇は無いようですよ、リナさん」

 レーザーブレスが一気に降りかかってきていた。
 今度は、行動に移らなかった。歌うような高い声とまるで舞を舞うようにふわりと金糸の髪と連動するように明るいピンクのスカートが揺れたのを感じたからだった。――恐らくは、神聖呪文。アメリアさんも扱えたはずだが、魔法容量を考慮すれば彼女が唱えたほうが効率的ではある。…まぁ、その前にアメリアさんが気づいたときに唱えたのならば、恐らく間に合わずにレーザーブレスを直撃していただろうが。
 最終アクションと恐らくは呪文の末尾を唱えたであろう、金糸のような髪が揺れて彼女の周りには、彼女を中心とした結界が張られレーザーブレスを防いだ。
 まるで揺らぐ事の無いそれは目の前の女性の魔法技術の類稀なる才を発揮しているような気がした。
 光の雨が終わると手前のほうにミルガズィアさんが立ちふさがった。

「私が目くらましをしておく。――ゼロス、道案内を」

「ええ。いいですよ」

 はっきり言って、別に此処で見捨てても僕にとっては何の損害も無いのだが、なかなか興味深そうだしミルガズィアさんのお願いに同意しておく事にする。
 僕と同じレベルの魔力を備えているこの森の中心に住んでいた彼女でもこの黄金竜が結界を張った森を抜けられるだろうと思われるが、彼女の言動はまるでこの森の中心でしか生活をしたことのないといわんばかりのものだった。そして、ミルガズィアさんがわざわざ僕に頼むということは恐らくこの森を行き来したことがないのだろう、と安易に予測させる事が出来た。

「ミルガズィア小父様!」

「大丈夫だ。これでも私はそれなりの力を持っている。力負けはせんし、死に行く気もない。早く逃げるのだ」

「けれども!」

「主が逃げねば、私は集中して応戦する事が出来ん。なにより、お主には生きていて欲しいのだ」

 ミルガズィアさんは薄っすらと微笑みを浮かべる。その様子に彼女は蒼の目に少しばかり涙を浮かべていた。なかなかの感動シーンである。
 僕にとっては茶番でしかないけれど。

「分かりました…。でも、絶対無事に顔を見せてくださいね!」

「ああ、お主も…。何があってもどんな出来事が主の前に突きつけられようとも、その笑顔を忘れるな」

 彼女はどうにか笑顔を浮かべてはこくり、とミルガズィアさんに頷くと僕の前に来た。
 その表情は先ほどの愁傷なもののままで。

「…お願いします」

 その様子に僕は笑った。

「では、行きましょうか」

 レーザーブレスと魔法の応戦の中、リナさん達が頷くのを確認すると黄金竜たちの結界の中である森の中に先頭となって入り込んだ。
 広がる緑の木々は、まるで変化を見せる事など無くただ静かに揺らめいている。
 僕はにっこりと笑うとリナさん達に釘を刺した。

「離れないで下さいね?探し出すのは面倒なのですから」

 まぁもっとも、異界黙示録に繋がる空間よりは簡単なのだが、その魔力の溜まり場ゆえに探すにしても気配がおぼろげになる。
 そうして僕達はただひたすらに歩いていた。

「ミルガズィアさん…大丈夫でしょうか」

 アメリアさんが心配そうに呟くのを聞きながら、僕はにっこりと笑った。
 リナさん達の空気は一段と重いが、それを気にする理由など僕には何一つとしてわからなかったし。強ければ勝ち、弱ければ負けるだけだ。

「気にするだけ無駄だと思うんですがねぇ。まぁ、勝っても負けてミルガズィアさんが死んでも僕にはなんら関係有りませんし」

 呟くと、目の前に立ちふさがる人がいた。それは、恐らく身内のように接していただろう黄金竜のお嬢さんで。
 その深い海の色に怒りの赤い色を継ぎ足したような瞳できっ、と僕を睨むと張り手が振ってきて、僕は頬を平手で殴られていた。もっとも、魔族である僕にはそれはまったく痛くないのだが。寧ろ、殴った彼女のほうが痛かったのではないだろうか。
 彼女はそうしてまくし立てるように叫んだ。

「やっぱり魔族は有害危険生ごみですね!私、魔族を見たことはありませんでしたが教えられたとおりですねっ!!」

 その後に、小さく何かを呟いたようだったが僕には聞こえなかった。
 揺れる金色の髪から流れるように見える怒りに満ちた表情は僕の空腹を満たすには少々足りなかったが、それでも食べられないよりはいいだろう。もっとも、そんな気はさらさらなかったので偶然の産物ではあったが。
 僕はにっこりと笑って、「痛いですよ」なんて言うだけで何一つ謝りもしなかったら、それは更に彼女の怒りを煽るだけのようだった。
 特に気に求めず糸の流れる方向を目で追いながら僕はひたすらに歩いていく。

「あいつに何を言っても無駄よ。そうとしか捉えられないんだもの」

 リナさんの呟く声だけが聞こえた。




 迷う事も無く出口が見えて森から抜け出す事の出来た僕は、ともかく獣王様に報告するために擬態をといた。

「では、皆さん。またお会いしましょう」

 果てが見えない空間のその場所にいらっしゃる獣王様の元へと行くと、獣王様は豪華で座りごこちの良さそうな椅子に座って優雅に血のような赤い唇をうっすらと吊り上げて微笑んでいた。まるで全てを知っているかのように。
 しかし、報告は報告である。
 僕は頭を垂れ、疑問点も含めつつ今日遇った事を獣王様に説明した。

「ふぅん。その娘――面白そうね」

 一通り僕の報告をお聞きくださった獣王様はとても楽しそうに口角を上げ微笑んでいた。
 僕の想像を寸分も違わない言葉を発してくださる獣王様はやはり面白さ優先で、他の腹心の方々とは異質である。
 もっともそれは僕の嫌いなものではない。寧ろ、考え方も同属と言えるほどに僕と似ている。――いや、獣王様が僕をお作りになったのだから僕が獣王様に似ているのだろうけれど。

「しかし獣王様、あの娘は僕と同等の力を持っていることは確かです。攻撃の手段を知っている僕が優位なうちに殺しておくべきでは?」

 それでも一応面白さよりも魔族にとっての有益を優先すべきなので、僕は獣王様にそう提案してみるが、獣王様はそれでも笑みを変えることは無かった。

「黄金竜たちはその娘を殺そうとしたのかはわからないけれど、娘が居た事、そして同族にもかかわらず無差別に殺そうとしたことは事実だわ。ならば、その娘が死ぬことによって神族に有利に動くことだってありうるし。――ともかく、黄金竜の真意が見えないうちはその娘を守りなさい」

「は」

 獣王様の命令に逆らえるはずも無い。



      >>20050427 ミルガズィアさんの口調がわかんないです。



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