愚かな寓話
「それで、神の領域に手を出しちゃった訳?」
リナさんが呆れたように肩をすくめて言葉を発すると、最長老は静かに黄金竜の娘を見た。
そう、何かを伝えるように。
「――無論、成功などしなかった。一例を除いてはな」
その言葉にその視線に、彼女は最長老が言わんとすることを理解したのか海のような蒼い瞳を見開いた。
それを受け入れたくもないと言いたげに。
「まさか」
ぽつん、とリナさんが呟いた。
聞いている五人の気持ちを代弁するように。
最長老は、何一つ表情を変えずに口を開いた。
「……同じ、竜同士をかけたのがよかったのかも知れん。ともかく、古代竜と黄金竜をかけたその娘は急激な成長にも耐え、約3年程で竜と同じ成人と呼ばれる体格になり――、儂らは性格形成のために結集して作り上げた迷宮の奥へとその娘を入れた。それが、お主なのだよ」
それはこの実験用の硝子の筒と魔方陣、そして黄金竜の動きから推測できたものだったが、理論上のものでしかないそれが本当に完成していたとは…。
確かに黄金竜ならば異界黙示録を見れるわけなので、人間よりは手の施しようもあったのだろうが。
けれど思い当たる事はあった。
黄金竜とは思えないほどの魔法容量はともかく、性格に置いての未成熟さ…これは彼女が長い月日を生きていない証拠である。
ふと黄金竜の娘を見ると、思っていた事を現実にさせられてしまったかのように、まるで受け入れがたい事のように驚愕で顔を歪めていた。
そして、ひしひしと感じる怯えや恐怖と言った負のハーモニーは彼女1人から出てくるもので…。美味しく頂けばいいのにそれも出来ずにいた。
ただただ、痛む。
何かが反応するように。
「わ、私がそんな……」
最長老は、有無を言わさぬ目でその濁った海のような青い目をじぃっと見た。
「さぁ、選ぶがよい。儂らの意思を受け入れ魔を滅ぼす事に加担するか、もしくは――同族である我らの手で殺されるか」
彼女は悩んだように顔を伏せた。
負のハーモニーが押し寄せてくるが、それが一瞬にして押さえつけられ弱いものになる。
驚いて彼女を見ると、伏せた顔を上げていた。
魔法容量が同じだとしてもその経験値から僕より確実に弱いはずなのに、それでも幼い喧嘩を吹っかけてくるいつもの彼女のように。深い海のような蒼い目を意志の強い色で最長老を見つめ。
僕はそうして、いつも土壇場で自分の意思を強く決める彼女に驚かされるのだ。
それと同時にとても―――美しいと。
彼女は長老のもとへ歩いていく。
意思を貫くようにその海色の瞳を最長老に向けたまま。
「ちょっとっっ!」
リナさんが驚いたように叫んで静止させようとするが彼女は大丈夫、と言いたげな瞳をしてふわりと微笑んでいた。リナさんはその表情を見て彼女に何も聞かずに静止するのを止めた。もしかしたら大丈夫だと、そう判断したのかもしれない。
そうして、彼女は丁度リナさん達と最長老との真ん中の位置に来ていた。
にっこりと微笑んで。
「わかりました、最長老様。私は――あなた方に協力しましょう」
リナさん達は予測していなかった言葉だったようで、ひどく驚いた表情をした。
それと共に僕の擬態の中のどこかが痛み出した。
どこだかは分からない。
それでも僕は――僕たちの邪魔となる彼女を殺さねばならない。大義名分のもとに。
「正しい決断だ」
どこか満足そうな最長老の言葉に、彼女はすぅっと真っ直ぐに海色の瞳を向けて、凛としたままの表情で見ていた。
なにかが、違うような気がした。
彼女が先ほど言った、協力するというその言葉とは裏腹な表情のような気がしたのだ。とてもとても強く。
「しかし」
彼女は言葉を区切った。
深い海の色を宿した瞳は、まるで最長老の罪を静かに静かに見ているようで。
まるで神々しいまでの神。吐き気がするくらいに。
それでも、なお美しいほどの。
「それをさせるのならば、私を傀儡にしてあなた方の思い通りにしてからにしてください。私は、神の領域を平気で侵すあなた方を同じ神族だとは思えない。――いいえ、私は神族ではないのかもしれない。けれど、私を作ったあなた方に従うのは、最早魔族に従うとこと同じことだわ」
その言葉に、何故か痛みは消えていた。
それは一体何なのか。
僕は、一体…。
「…そうか、ならば私は儂らの保安のために、お主を殺さねばなるまい」
最長老は苦々しくうめく様に呟いて、人間には発音できないような音を発すると真っ直ぐにレーザーブレスにも似た光が彼女に向かっていった。
しかし、彼女はまったく塞ぐための防御呪文を唱える気配すらもない。微動させずただ、海色の瞳を屈する事もないまま前に向けていた。まるで、間違えを正したいと願うように。
黄色の光線が彼女に届く前に、僕は気づかれないように封じていた魔力を開放し、擬態を作って黄金竜の娘の前に立った。そうして、何処にでも売っている杖を光線の前に翳すとそれははじけ飛んで消えた。
「ゼロス!何故お前が」
僕はその言葉にいつものように感情の判らないにこ目を作って対応した。
「僕は、同じ空間にいましたよ。……無論、あなた方竜族に感づかれぬように工夫はしましたけれどね」
「何故、お前が娘を庇う?この娘は、恐らくお前たち魔族にも協力はしまい」
それは、分かっている事。
彼女は自分が正しいと思う事しかしないだろう。まるで汚いものを見るように魔族を見ているのだから。
けれど彼女が存在している事に一種の意義はある。彼女の存在が黄金竜やそれ以上の…神族の王達が知ってしまえば、内部混乱は避けられないのだから。
「ええ。それはよーく分かっていますよ。現に、僕の事を毛嫌いしまくってますしね」
「ならば何故」
「それは秘密です♪」
僕は人差し指を唇に当てて、そう言った。
最長老はあっけにとられて僕を見ている。
聞き出そうとでもしたのだろうか。でも、僕は最長老などに踊らされてほいほい喋るほど愚かではない。
足音が聞こえて振り向くと彼女はリナさんの元へと行っていた。
まぁ、まとまっていたほうが僕も何かとやりやすい。
「で、どうする?」
そう、ゼルガディスさんが問うと、リナさんがひたすら真面目な表情で言った。
「もちろん、逃げるわよ。ここじゃ、黄金竜たちが多すぎて、きついわ。もちろん――、ゼロスがこっちに加担してくれるのであれば、そこら辺は一発で解消するんでしょうけれども、この神殿にはこの事実を知らない人もいるし、それをするにはいくらなんでもね」
「まったくだな。で、ゼロス。お前はどのくらい協力してくれるんだ?」
そう言われて、僕は首をかしげた。
面倒な事に巻き込まれている事は重々承知していたし、これほどの協力はしなくてもいいのだが…。
「そうですねぇ。…といっても、獣王様のご命令以上の事をするのは僕の性に合わないのですが。ともかく、最長老様は止めていてあげましょう。その間に、脱出してください」
「おっけー。行くわよ、皆!」
リナさんが叫んで、脱出するために下りてきた階段を駆け上がっていく。
僕はそれを静かに眺めて、姿が見えなくなったのを確認すると最長老のほうを見た。
「何を企んでおる?」
ぽつり、と最長老が言った。
その言葉に、僕はおかしくて笑った。
まるで、自分の行動を棚に上げた言葉に。
「何を言っているのですか。最初に企んだのは、あなた方黄金竜のほうでしょう?僕達はそれに便乗しているだけですよ」
「何をぬけぬけと。…主らが考える事はろくでもない」
「それでは、あなた方の考えるものは、ろくなものだと?」
最長老は押し黙って、悔しそうな表情をした。
自覚しているのならば、最初から僕を挑発するような言葉を言わなければいいのに。
「自覚しているようで♪それで――、最長老様は、僕に攻撃しないのですか?」
目を開いて真面目な表情をすると、最長老はびくっと身を振るわせた。
そうして、しかし表情を変えずに淡々と僕に言う。
「儂の力が、お主にはまったく届かん事など承知している。さっさと殺しにかからないということは手出しをしなければ生かしておいてくれると、そういうことだろう?ならば儂は――わざわざ死には行かんよ」
さすがに、其処まで愚鈍ではないという事か。
しかし、僕には黄金竜の娘のような無謀さのほうが楽しく映るのだが。
それでも己の身を最優先するのは生物の本能だろう。
「さすが最長老様。僕も手間が省けていいですよ。――さて、リナさんたちは此処を脱出したようですし、僕もこれで失礼させていただきます」
僕はそうして、擬態を解除した。
>>20050629
いちおー、ホムンクルスと合成獣は違うイメージ。
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