僕はまた同じことを繰り返すのだろうか。
凍えた場所
広がる空は不気味なほどに青で、僕はそれを苦々しく思いながらも何処か許容しているような気持ちで見上げていた。
世界は後始末などしなくともただ静かに回るものだけれど、始末しなくては問題あるものも確かにあるので、活動していらっしゃった覇王様の後始末をしていた。
それは例えば1000年以上前に起きた戦争に比べればとてもつまらないものだったが、まぁ別に不満は無い。僕だって今が活動期でないことぐらい承知しているのだから。
にこりと笑って、杖を振りかざすとレッサーデーモンの発生地点が分かるような魔力の匂いは消えた。
それを確認すると、別にこの場所に何の興味も覚えていない僕はさっさと擬態を解除し、僕の住処であり世界である精神世界にその身を浸した。
すると、獣王様が呼んでいらっしゃるのが分かったので、僕は即座に獣王様のもとへといった。
頭を下げたまま登場した僕に、獣王様は顔を上げるようにと促し、その言葉に答えるように顔を上げると、煙管を咥えた獣王様はそれを吸い込んで、煙管を手で持つと息を吐いた。
それは、何時の頃だったかの風景と何一つ変わらぬまま。
「順調…のようね」
「ええ。あれしきの事で獣王様のお手を煩わせる訳にはまいりませんから」
その問いに満足したように獣王様はその血のように赤い唇に弧を描いた。
しかし、次の瞬間にはその弧をどこかに引っ込めて、煙管を持ったままの手で頬杖をつくとまるでしょうがない子ね、と呆れながらも笑う母親のような表情を浮かべた。
「まだ――あの黄金竜の子にはちょっかいをかけているの?」
僕にはその問いに答えることは出来なかった。
ふとしたときに覗いてしまうあの骨董屋は、ヴァルガーヴの様子見だなんて大義名分はあるものの、それが全てでない事など僕ですら分かっているのだから。
それは、例えばあのホムンクルスの女が骨董屋をやるから見に来てくださいね、と言ったときに感じた彼の感情のようなものなのだ。
もちろん、それが全てでない事は理解しているつもりなのだが。
でも、それを違うと否定してしまうには物的証拠も心情も弱すぎて――。
「引き止めるつもりなど無いわ。ゼロス、貴方は貴方のままに生きれば良いと私は思っている。けれど――ほんの少しの老婆心のようなものだわね。過去の貴方の結末を見た私の」
獣王様の仰っている事は理解できる。
もちろん、身を滅ぼすなんてもってのほかだ。
仕組まれた宿命を果たすまではそれを望んでなどいないのだから。
けれど、ありえるはずが無いと笑い飛ばせないのは彼が抱いた感情を客観的に知っている所為なのだろう。そう――身を滅ぼしてもよいと思ってしまうほどの鮮やかに燃え上がる感情を。
「獣王様。僕も、それは望んでいません」
ぺこり、と頭を下げると僕はその空間から逃げるように消えた。
「望まなくても、攫われてしまうのでしょうに」
獣王様の声を聞きながら。
>>20060207
あらら、最初短くなっちゃった。
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