凍えた場所
やはり来たのは、黄金竜の娘――フィリアさんが住む小さな街だった。
獣王様に釘を刺されたばかりだというのに、どうしてまた来ているのだろうか?と己に苦笑しながらも何故だか向いてしまうのはフィリアさんの居住地である骨董屋だ。
町のディスプレイは客を誘うようにきらきらと煌いていて、僕はのんきにそれらを眺めながらふと、一つの石切屋が目に入った。
窓を通して見える細工された石はもともとの色のなのか薄緑色に、鳥とトカゲが彫られており鳥とトカゲは胴体でとても奇妙に交じり合っていた。
それが美しいのかそうでないのかなど僕には理解できなかったが、それはどこか人間の性質にも思えた。
飛び立てるものと飛び立てないもの。
相反するそれは確かにどちらも憧れるものなのだけれど、交じり合って一つになってしまうぐらいには可能性のある物なのだ。空を飛ぶことも飛ばないことも。
片方の道しか存在しないような僕とは違い。
「お兄さん、細工に興味があるのかい?」
その人は頬こけた顔をしていた。
頭は髪を隠すようにタオルを巻いており、彼の髪が何色でどのくらいの長さなのかその状態では判別する事が出来ない。
少し釣りあがっている目は、対客用なのかそれとも興味を示す僕に好感を持っているのか、少し和らいでいて。
「――上手ですね。貴方がお作りに?」
視線で先ほどの細工された石を見ることによって指して、その人に問うた。
その人は少し照れたように微笑んだ。
「ああ。ま、と言っても俺は設計書の通りに削っているだけなのだが」
「設計書?」
僕が首をかしげると、その人はにこりと笑い中に入るか?と促した。
とかく面白そうな現象には興味を持つ気性に、フィリアさんちに行くのは誰とも約束しているものでないことも相まって、少し時間が経っても構わないだろう、と自分の中で結論付けると中に入った。
簡潔的なカウンターの周りにはディスプレイされた細工の入った石が置いてある。
その石自体も薄く切り取られ、小さな箱になっていたりコップや花瓶になっているのもあるようだった。
「ああ、石を見ると自然とどんな風に細工すればいいのかわかるんだ。俺はただその通りに彫っているだけに過ぎない」
男は自身を嘲笑するように笑った。
僕からしてみれば、それは一つの才能ではないのかと思うのだが。
その考えをそのまま男に告げてみると、男は再度自嘲するように笑った。
「それが、元からある俺の才能であればそう思っていたのだろうな。まぁ、所詮はただの石工ってだけなのさ」
男に何があったのかは知らない。
だが、何があっても別段驚きはしないだろう。
僕だって時には人生を変えるような変化を人間に与えた事もあったし、精神世界と現実世界という二面性から成り立っているこの世界は魔法と言う現象と、精神世界から現実世界へのアプローチが可能という時点から不思議な現象などやすやすと成り立つように出来ているのだから。
まったく、もっと驚くようなことは無いだろうかと思ってしまうぐらいだ。
「なぁ、お兄さん。これに興味があったのだろう?持って行くかい?」
「……いいのですか?」
「構わないさ。それも持ち主を探している物質にしか過ぎないしな。だが、所詮ただの平たい石に細工がしているだけだ。使い道は殆ど無いと思うがな」
男はおどけた様に手を広げた。
僕は確かにそれはそうだ、と思ったものの別に置く場所に困る訳でもないのでその行為に甘えることにした。もっとも、それが僕の元で静かに朽ち果てるのが運命なのだとしたら随分可哀想な気もするが。
それを左手に持ち、杖を右手に持つと僕はその石切屋から出た。
今度こそ、フィリアさんの住んでいる場所へ行くのだろう。
人々が行き来する町並みを通り過ぎると、少し町外れに存在する竜のレリーフが印象的なその店兼住居に到着した。
が、しかし僕が感じる限りその店の中には全く人の気配がせず僕は首をかしげた。
もっとも、それだけじゃあフィリアさんたちがいない要因にはならないので確かめる意味もこめてドアを開けると、客を知らせるためなのかからんからんと甲高い音で鈴が鳴いて、目の前にカウンターが見えた。が、其処には予想通り店の主人はいない。
まぁ、店番だけが仕事であるわけじゃあないので、もしかしたら商品管理のために別の部屋にいるのかもしれない、と思いカウンターより左側に位置するところにある扉を開いた。が、其処にあるのは静かに眠っている骨董品だけで、主人の姿はやはり見えない。
ならば、居住区のほうだろうか?もしかしたら、休憩中なのかもしれない。…もっとも僕の感じている事に何ら問題がなければそれはありえないのだろうけれど。
そう思い、カウンターの後にある扉を開いて、家のほうにお邪魔した。
が、リビングにはヴァルガーヴの卵が静かに眠るように存在していたけれど彼女の姿は見当たらず、僕は家中を探した。台所にも寝室にもトイレにも書斎にも客間にも……家の何処の部屋にも僕がこの建物の中に入る前に感じたとおり、彼女の姿は見当たらない。
僕は首をかしげて、リビングにあるダイニングテーブルの椅子に腰掛けた。
まったく、一体何があると言うのだろうか?
もしかしたら、何らかの理由で席をはずしているのかもしれないが、それならば扉を開けっ放しにしておくのはさすがに無用心と言うものだろう。骨董品というものはそれなりに値が張っているのだから。もちろん、とても高いものは厳重に保管してあるのだろうけれど、彼女が心無いものに骨董品が行くことを望んでいるとはとても思えない。
とりあえず、少し待ってみることにしよう、と構えたとき、ふとテーブルに上がっている小さな小物入れのような箱が目に入った。
それは、僕が先ほど貰った孔雀石の細工と同じように、孔雀石で出来た箱で外見には綺麗な花が緻密に彫られていた。
まるであの石工が言ったとおり設計図のまま掘り進めたように。
「……まぁ、彼女はこういったものが好きそうですけどね」
壺が彼女のコレクター魂に火をつけるものであるのなら、それに付随するような装飾された骨董にでもなりそうなものは守備の範囲内のような気がする。まぁ、もっとも僕の知った事ではないが。
などと、適当なことを思いながらその装飾された蓋を開ける。
と、光が急激に漏れ出して耐え切れずに瞳を閉じた。
>>20060217
実在の孔雀石とは関係ありません。
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