リナリアから借りている部屋にたどり着くと、フィリアはベッドの上に勢いよく座った。
そうして、疲れたとばかりにはぁと息を吐きながら背中を倒し、彼女は天井を見る。
「とりあえず、犯人候補は一人減ったけど……」
彼女は溜息を吐く。
そうして何かを考えるようにじっと天井を見ていたが、徐々に瞼が重くなってきたのかゆっくりゆっくりと目を閉じた。
囚われ人の恋歌
しんと静まり返る闇が世界を支配する。
寝支度もせずに眠ってしまったフィリアの部屋へ、かちゃりと窓から音が響き蠢くものが入り込む。
眠っていることを確認するように覗き込んだそれは、静かに手を振りかざし――。
「 !」
かっとフィリアの目が開き、人の耳では捉えられない音が発せられると同時に白い閃光がそれを打ち抜く。
蠢くものが倒れこむよりも先にそれの体を掴み起き上がったフィリアは、闇に慣れない目を凝らし辺りを窺おうとするが、それよりも先に蠢く者達が攻撃を仕掛けた。
フィリアは太ももからモーニングスターを取り出すと、気配だけを頼りに攻撃を捌く。
そうしながら窓へ足をかけ、とんっと空へ身を投げた。
「
浮遊
(
レビテーション
)
」
呪文を唱え、月を背にし自分の部屋を見たフィリアはようやく蠢く者達を見ることが出来た。
「やはり」
予想を裏切らず、アンデットもどきであった。
それが五体ほどいる。
彼らは死霊ではないので六芒星の魔力に囚われることなく進入できたのだろうが――、フィリアは眉間に皺を寄せた。
「ゼロスが関わっているから、これほど正確なの? それとも術者の魔力がそれほどまでに強いということ?」
セイルーン城はならず者がやすやすと侵入できるほど、警備の甘い場所ではない。
どういう手段によってフィリアの居場所を特定しているのか定かではなかったが、もし犯人が行なっているとしたら狡猾で、かつ魔力が高くなければ不可能だろう。
フィリアの居場所を知ることなど。
そして、聖王都の中心であるセイルーン城へアンデットもどきを侵入させることなど。
アンデットもどきたちはフィリアを狙うためにひゅんと跳躍し、どういう仕組みかは分からないが浮遊を唱えることもなく宙に浮いたまま攻撃を仕掛けた。
だが、建物という制約がなくなれば攻撃呪文を使い退散させることが出来る。
「
火炎球
(
ファイアー・ボール
)
」
アレンジし、対複数用に作られた火の玉を打ち放つ。
フィリアにとって浮遊如きの初級呪文ならば意識せずともコントロールはたやすいので、火炎球のコントロールに気をつけながらアンデットもどき達に当てていく。
火炎球は同威力のものが複数に分散し更にコントロールというアレンジがなされており、その複雑性から人間であれば威力が落ちても仕方ないのだが、人より遥かに高い魔力を有する彼女の火炎球は人間が放つ通常のそれよりも更に高い威力を発揮し、アンデットもどきたちを消し炭とした。
と、唐突にぱちぱちぱちと手を叩く音がする。
フィリアは鋭い目で音のするほうを振り向き、呪文を唱えた。
「
竜破斬
(
ドラグ・スレイブ
)
」
が、しかし赤い閃光は爆発に至らず、音を発生させた人物――ゼロスは人差し指をつきたてにこりと笑っていた。
「黄金竜が竜破斬を撃つなんて滑稽ですよ、フィリアさん」
確かに、竜破斬とは名の通り竜を倒せるほどの威力を持つ人間用の呪文である。
それを黄金竜であるフィリアが放つとは矛盾を覚えるものであった。
が、フィリアは表情も変えずに鼻で笑う。
「そうでもないでしょう。貴方に復讐しようと決めたとき、手段を選ぶつもりはなかったのですから。――たとえ、そのために仲間を悲しませ、神託のとおりにことが運んだとしても」
ゼロスは笑みを深めた。
深遠を覗き込むような、深く暗き笑みを。
「"世界は変革を迎える"――、その変革が僕達によって素晴らしいものであれば良いのですが」
「それは保障いたしかねますね」
「まぁ、そうですけど」
無表情でゼロスの言葉に対して曖昧なニュアンスを返したフィリアに対し、彼は肩を竦めた。
「でも」
フィリアはゼロスに言った。
強い殺意を含めた目で。
「どちらにしろ、貴方は滅します」
その言葉に、ゼロスは笑みを浮かべる。
「じゃあ、頑張ってこの事件を解決してくださいね。そこに、僕は居ますから」
そうして、ゼロスは月明かりの影を消すようにすっと居なくなる。
ゼロスがいなくなったその空で、フィリアは一段と大きく見える月を見ながら、ぐっと歯を噛み締めた。
>>20080605
爆炎舞のアレンジでもいいかも。
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