次の日、ラビットと別行動をしたフィリアは図書館にこもりっきりだった。
 まるで何かに追い立てられるような勢いで本を読み閉館までいたが、それでも飽き足らず本を数冊借りて宿屋へと戻る。
 部屋に設置されている小さなテーブルの上に本を山積みにしたフィリアは、熱心にそれを読んでいた。
 本の表題は『白・精霊魔法と黒魔法の互換性』『混沌の言語カオス・ワーズと力ある言葉の言語差異』『別種族に人間の魔法は唱えられるのか?』などなど、一定の法則を見出せるものである。
 それらを読みながら、フィリアは眉間に皺を寄せていた。

「……どうにも、難しいわね。あなたなら知っていらっしゃいますか? なぜ黒魔法と精霊魔法は言語を別にしなくてはいけないのか」

 そう呟き顔を上げると、睨みつけるようにフィリアを見ている男性体がいた。

「人間のことなど興味はない」

 一言で言い切った男に対し、フィリアは首をかしげた。

「同じ生きとしいけるものですもの、少しは興味を持ってみてはいかがですか?」

「我らはただこの世界を守るだけに行動している。……そこに多種族への興味などいらぬと思うが」

「まぁ、世界を守ろうとしているのはあなた方ばかりでもないですよ。味方は多いほうがいいと思いますけど」

 まるで当然のことを言うようにそう提言したフィリアに対し、その男は失笑した。

「世界を破壊しようとしているものの台詞とは思えんな」

 フィリアはぱたりと本を閉じると男の青い目を見た。
 自分と同じ、その色を。

「世界を守れるものならば、守りたいと思っています。ただ、ゼロスを滅ぼすことを優先しているだけで」

「戯言だな。世界を破壊しようとしている時点で、貴様の言葉はただの言葉遊びにしかならん」

「構いません。誰にも、私とゼロスの間にある愛憎を理解してもらおうだなんて思いませんから」

「そうか」

 男が一言発した後、人では到底聞き取れない発音がなされ、宿屋の中から何もない別空間へ放り出される。
 それは結界であった。
 フィリアと向かい合った男は感情を見せない冷酷な目で、戦闘開始の声を発する。
 竜族にしか聞き取れない攻撃の声を。
 直情な竜族のような直線に進む光線を避けたフィリアは、モーニングスターを太ももから取り出しつつ呪文を発した。

「竜破斬!」

 赤眼の魔王ルビーアイから力を借りたその呪文はしかし赤い閃光を見せただけで破壊力を見せることはなかった。
 男はたんっと足を踏むとフィリアとの距離を縮め、突如現れた飾り気のない剣を彼女に振りかざす。
 フィリアは辛うじてモーニングスターでそれを受け止めると反動のまま打ち返した。
 そうして、そのまま竜語で攻撃呪文を発動させる。
 が、男はフィリアの足をかけ倒すことにより軌道をずらし、攻撃を免れた。
 そのまま倒れたフィリアに剣を突き刺す。
 しかし皮一枚切り裂かせながらも体を転がすことで、剣を肉体の奥深くまで侵入させることを辛うじて防いだ。
 だが、状況は悪い。
 転がるフィリアを突き刺そうと、男は何度もその体に狙いを定め剣を刺す。
 その様はまるでなにかの的当てゲームのようだ。
 このままでは的にダーツが当たるように、いつか剣がフィリアの体を突き刺してしまう。
 フィリアは覚悟を決め、転がるのを止めるとモーニングスターで剣の切っ先を受け止めた。
 むろん、仰向けで受け止めるよりも体重をかけ突き刺そうとする力のほうが強い。だからこそ、フィリアは一秒も間をあけず光線を放った。
 男はなんなくそれをひょいと避けると再度剣の軌道をずらし彼女の体に突き刺そうと試みるが、背後から何かがやってくる気配を感じたのか今度は全身を動かす。
 それは男にとって正しい行為であったようで、フィリアが放った光線はどこで軌道を変えたのか、男の背後から襲う。
 再度避けられた光線は正面から男を狙うが、しかし男の持っていた剣でかき消された。
 その間に立ち上がったフィリアは呪文を唱えながら男へ近づく。

「封魔崩滅」

 対魔族の呪文は、しかし精神世界面で不発になった。

「私よりも弱い貴様が、なぜ世界を滅ぼせるという」

「……それでも、弱くても足掻くのが私のエゴでヴァルへの愛です」

 男は嘲笑した。
 そうして、剣を振りかざす。
 フィリアはモーニングスターでそれを受け止める。
 それを理解していた男は動揺することもなくレーザーブレスを放つ。
 ややしゃがむことでそれを避けたフィリアは、男の懐にもぐりこむとモーニングスターを持たない手で男の胸を突いた。――小刀を持った手で。
 そこで、初めて男は焦った様子でフィリアを見た。

「同族を手にかけるのか!」

 しかし、フィリアはぴくりと体を動かしただけで、冷酷にその呪文を放った。

「竜破斬」

 アレンジの加えられたその呪文は小刀を介して男の体に着弾する。
 内側から破壊を受けた男は、その攻撃性が高ければ血肉を残すことなく塵になるはずだった。しかし、フィリアの力が弱いせいか全てを塵にしてしまうほどの破壊力はなく、彼女は血と肉片を全身に浴びる。
 その途端、術者がいなくなったせいか宿屋の元いた部屋へフィリアの体は戻った。
 元は仲間であった黄金竜の血肉にまみれたフィリアは、目を伏せ呟く。

「この復讐を達成するためならば、同族に手をかけることだっていとわないわ」



      >>20100211 グロテスク表記いります?



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