「そうか。あんたはファインっていうんだな」
「ええ。大体リナ=インバースは明るい栗色の髪に目だったでしょう? 私みたいな焦げ茶色の暗い色ではなかったわ」
短い髪をつまみながら、私は軽く笑って見せた。
彼――レオンが出会ったのも何かの縁だと宿屋に案内してくれるということで、その道のりで軽い自己紹介を済ませた私はリナとの唯一の違いを指す。
「しかし、髪の色や目の色ぐらいだったら魔法でどうにかなるような気もするが」
「だからって、アンタ騙してどうすんのよ。私に何の得もないじゃない」
「そりゃあ、そうだが。――でも、あんたリナ=インバースに似すぎているような気がしてな」
レオンの言葉に私はドキッとした。
確かに、私はリナに似すぎている。――いや、似すぎているのはしょうがないことなのだけれど。
しかし、何の事情も知らない彼にとっては単純に不思議なことだろう。彼とリナがどれだけ親しかったかなど知らないけれど。
「しかし、思い違いかもしれん。俺にとってリナ=インバースはガウリイの連れでしかなかったからな」
肩をすくめて呟いた言葉に、ああガウリイの関係者だったのかと思わず空を眺めた。
空は時の止まった町という悲壮さなど目にくれず青々と晴れ渡っている。それは、まさにガウリイの目のようで。
私は不意にリナ=インバースとして旅をしていたときを思い出した。
酷く楽しくて酷く辛くて、どうしようもなかったその日々を。
そして、私をリナと扱ってくれた優しい彼を。
「……おい」
意識が彼以外のところに飛んでいたので、はっとして顔を向けた。
そうしながら誤魔化すようにパタパタと手を振った。
「いやー、意識が飛んでたわ」
「それはいいんだがな。着いたぞ」
そうして指差す先には、確かにでかでかと宣伝された宿屋という文字が書かれた看板が見えた。
宿屋の中に入ると、時が止まった街というのが凝縮されているような風景が広がっていた。
楽しげに手を広げながら話している男と、それを聞いている女。
フォークを口に寄せ、今まさに食事をしようとしている傭兵。
酒が入っているグラスジョッキを掲げている恰幅のいい親父。
そんな、騒がしいはずの景色はしぃーんと静まり返り、全てが停止したようにぴたっと止まっている。
「酷いわね」
「まぁな。でも不思議なことに喰いものの時は止まってないみたいだ」
「へ?」
私は首をかしげて、フォークで食べ物をぐさっと刺そうとしている魔道士風の女性に近づいた。
徐々に分かる刺激臭に思わず私は口と鼻を手で押さえる。
食べ物は見事腐っていたのだ。
「ちょっと、アンタ分かってるんなら片付けなさいよ!」
「それほどの暇はない。俺も仕事で来てるもんでな」
「仕事?」
私は、レオンもまた私と同じく何の用事もないけれど流れてきてこの現象を見ているのだと思っていたから、不思議に感じ聞き返す。
レオンはどうでもいいというめんどくさそうな色を目に宿して私を見ていたが、疑問符を突きつけている私に対して少しばかりため息を吐くと、言葉を紡いだ。
「人探しをしている。聞いたところによると、それらしき人物はこの街方向に来たらしいのでな」
「へぇ、どんな人?」
軽い興味で聞くと、レオンは少し思案するように視線をさまよわせたが、妥協したのか何なのか私の質問に答えてくれた。
「名前はジーウ。十七〜八歳の女で栗色の髪に栗色の瞳。家を出た当時はピンクのワンピースを着ていたそうだ」
「ふーん。それだけじゃあ特徴の無い人ね」
「確かにな。しかし写真を見せてもらったのだが――」
先の言葉は続けられることもなく、消えてなくなった。
気になるような言い方に好奇心が刺激されて、中途半端な言葉を言ったレオンを睨みつける。
「そこで止められたら気になっちゃうじゃないっ」
「すまない、聞かなかったことにしておいてくれ」
レオンは片手を上げて私に何も言わせないつもりなのか宿屋の二階へ登っていってしまった。
記帳だけでもしたほうがいいんじゃないか、とカウンターに近づくが考えてみればタダで宿に泊まれるいい機会である。
泊まったような形跡のない綺麗な部屋がありますように、と祈りながら私も宿屋の二階へと上がった。
>>20100409
コピーさんの一人称は私ですよ。
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