なんだかとても嫌な夢を見たような気がする。
 まったく内容を覚えていないのだが、意識を覚醒させた私はそう確信していた。
 昨日、誰も使っていなさそうな部屋を見つけた私はそこに荷物を降ろし、泊まったのである。レオンも使っていないような部屋を見つけたようだった。あまり使われていない宿屋なのか、それともタイミングよく使われてない部屋が二部屋以上空いていたのか判別はつかなかったけれど。
 ともかく、部屋に付属されてあった洗面台で顔を洗い服を着込むと一階へ降りた。
 しかし食べ物が腐っているのならどうやって朝食を取ればいいのか……。朝から非常にめんどうで嫌である。
 憂鬱な気持ちで顔を上げるとレオンが片手を上げてよっと軽く挨拶をした。

「宿屋の冷蔵庫を覗いたんだが全滅だった。冷凍食品はいけるかもしれないが生ものは駄目だな。野菜は外にあった畑から引っこ抜けば大丈夫だと思うが……蛋白質、脂質は食べられないな」

 とりあえず適当に野菜引っこ抜いてきた、とレオンは調理場を指差して言う。……これはもしかして私に作れということなのだろうか。
 私は自慢ではないが料理などしたことがない。というかする機会がなかった。
 『リナ』と言われ、記憶喪失だと思い込んで旅をしていたときには適度に盗賊を倒して金銭を得て飲食を繰り返していたし、自身が模造品だと理解した後だって旅暮らしを続けていたので、必然と家事一般から遠のいていたのだ。
 そんな私に朝食を作れとは目の前の男はチャレンジャーだな、と思った。
 もっとも、相手は私の事情などこれっぽっちも知らないのだけれど。
 だから私は朝から気が重いのに、更に気が重くなり思わずため息をついていた。

「――私、生まれてこの方料理なんて一度もしたことがないから保証できないけど」

 レオンは驚いたのか目を見開いて私を見た。
 ま、確かに一般的な家庭だったら幼い頃から家事の一つや二つぐらい手伝いさせられてもおかしくはないだろう。一般的な家庭という奴を想像することは非常に困難なのだが、他人から聞いた一般的な家庭だとそうらしい。無論、その他人に私が『リナ』だった頃に会った人たちは誰も居ない。

「アンタ、高貴な生まれなのか?」

「ま、私の容姿じゃあ高貴な生まれだと思われてもしょうがないけど」

 質問に答えを含ませたニュアンスで返すと、ふっとレオンは鼻で馬鹿にするように笑った。ぶん殴っていいですか? と思わず敬語で聞いてしまうほどには目の前の男にむかつきを感じたので、スリッパでぶん殴っておいた。懐にスリッパを仕込んでおくのは乙女のたしなみである。

「ったぁーっ。……、お前姿だけじゃなく行動もリナ=インバースに似てねぇか?」

 一瞬ドキッとしてしまったが、不愉快だと言わんばかりに胸を反り返らせる。……あんまし、強調できない胸だけれど……。

「しっつれーね! 『盗賊殺しロバーズ・キラー』はまだまし、『ドラまた』『破壊の帝王』『冥府の王』果てには『大魔王の食べ残し』『大魔王の便所のフタ』『平面胸』なんて二つ名を持っているリナと一緒にしないでくれるっ!?」

 というか、こんな二つ名ばっかり持っているリナの今後にかなりの不安が残るが、持ち前の前向きさでどうにかしていくのだろう。嫁の貰い手がない、という部分においてはガウリイが解決するだろうし。
 ……自分で考えたことなのに、ぐぅっと胸が締まる思いがした。そんな自分に笑いたくなってくる。
 しかし、常識人である私はそんなことをせずレオンが掴んでいた野菜を掴み取った。

「ともかくっ! 出来なくてもやらなきゃいけないのならばしょうがないでしょう。やるわよっ」

「……激しく心配なんだが」

 レオンはやや呆れ顔で私を見つめている。
 心配する暇があるのなら、自分から行動すればいいことなだけであり、私は深く……それはそれはふかーくため息をつきジト目で彼を見た。

「じゃあアンタも手伝えばいいでしょ? 面倒な男ね」

「別に面倒だった記憶はないが……。そうだな、俺のほうが常識人だし」

「アンタ、ほんっとーにしっつれーね!」

 自分の思考に納得したのか、うんうんと頷くレオンに私は持っていた野菜を投げつけてやった。
 それぐらいは受けて当然の報いである。



      >>20100416 リナは家事大得意なのですが、コピーなのでね。



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