音を遮断しているため居場所を確定できることは不可能だけれど、歌っている本人はこの町や周辺のどこかで時を止めずに存在しているはずだし、西方面であれば先ほど手に入れた情報をとりあえず生かすことによって動ける。
 まぁ、その情報が正しいかどうかはわかんないけど。
 レオンに私と距離を取らないように釘を刺して、家を出て西のはずれにある森へ向かって走る。
 住宅街を突っ切り森の中へ進入し、廃屋を探しながら走った。
 すると、レッサーデーモンが行く手を遮るように突如出現した。

「もう、忙しい時に出てくんじゃないってのっ!」

 叫ぶと、既にレオンは長剣を抜き出しレッサーデーモンに切りつけた。
 刹那にしてレッサーデーモンは灰になる。
 溜息の一つでも吐きたくなるがそれよりも先に呪文を唱えた。
 精神破壊の槍が突き刺さると、レッサーデーモンは死体も残さず灰になっていく。
 そうしながら、私達はレッサーデーモンが現れる方向に向かって進んでいく。
 実際、街中にレッサーデーモンがぽこぽこ現れるなんてほとんどないのだ。魔道士が召喚するか、魔族の謀略でなければ。
 唄が混沌の言葉(もしくは力ある言葉)で構成されているのなら、魔法理論をそれなりに理解している魔道士と考えていいだろう。レッサーデーモンを召喚することなどたやすいぐらいの。
 ならば、召喚した魔道士を守るように命令され私達の行く手を阻んでいるのかもしれない。
 そう考え、あえて面倒な道を選んだのだった。
 走りながらレッサーデーモンをぶちのめしつつひた走ると、古ぼけた小屋が見える。
 近づくと扉の前で蹲る人影が見えた。
 人影が漆黒のような長髪を揺らし顔を上げると、私のよく知っている顔が見え息を呑む。

「……模造品コピー

 私が生まれる原因となった強く明るい少女と同じ顔をしたそれは、私と同じ遺伝子を持ち同じ方法で生まれたものだった。
 それは、原型品オリジナルとは似ても似つかぬ黒い瞳から涙を流し続けている。
 口がパクパクと動く。
 ちらりとレオンに視線を向けると、分かっている風にこくりと頷いたので私達を取り巻いていた魔法を解いた。

「やめ、止めて! あた、しはこんなこと……したく、ないのにっ!」

 パクパクと口を動かしながら彼女は声を絞り出す。
 その言葉はその表情は、まるで自分が作られたものであることに逆らうかのようであった。
 なんと問いかけようか迷っているその間に、レオンが口をパクパクと動かし続ける模造品の元へ近づく。

「アンタ、ジーウか?」

 問いかけはひどく単純なものだった。
 彼は元々言っていたのだ、ここへは人探しに来たのだと。ジーウという人物は栗色の髪に同じ栗色の目だといっていたが、言いよどんだその言葉の先は――もしかしたら私と原型品と同じ顔だった、というものなのかもしれない。
 証拠に、栗色の髪でも栗色の目でもなくなった模造品は歌おうと動く口を必死に押さえつけながら頷いていた。
 肯定を確認した後、レオンは続ける。

「アンタを心配していた人がいる。出て行く前のアンタはおかしかったのだと」

「そ、う。――」

 歌おうとする唇を必死に別の音へ変換させながら喋ろうとする模造品――ジーウの言葉は私の元まで届かなかった。
 それでも、言伝を預かったのか頷いたレオンは私の元へ来る。

「俺は仕事を果たした。どうするかはアンタが決めろ」

 述べる言葉は冷徹すぎて、温かさのひとかけらも感じられなかった。
 でも、これは私が背負うべき問題であることは確かで慰めの言葉など不要である。
 私は静かにジーウの元へ来た。
 涙を流しながら、彼女は同じ模造品である私に何かを訴える。
 それがなんなのかあまりにも分かりすぎて、弱い私はそれが自分のすべきことなのだと理解していても溢れ出た一滴の涙を止める術もなかった。
 一筋だけ涙を流した私は、腰に差していた短剣を取り出し彼女の喉めがけてぐさりと手に持っていたそれを突き刺す。
 血が溢れ出る。
 ひゅうひゅうと洩れる息を聞きながら、横に引き裂くと血が吹き出し私を染める。
 鮮血の中、彼女は解放されたように微笑み倒れ。
 確かに生きていた証として、地面は音を立てた。
 頬にかかった血を拭うとレオンのほうを向く。
 レオンは少しだけ顔を歪ませていた。まるで、辛い何かを見るように。

「いやね」

 私は呟いた。

「同じようなことは何度もしたはずなのに、まだ慣れることはなく嫌なままだわ。こんなこと、したくないのにね」

 頬を引きつらせ言った私に、レオンは更に顔を歪ませた。
 そんなレオンの隣まで来た私は促す。

「帰りましょう。きっと、街の人も元に戻っているはず」

 けれど、それに返事を返したのはレオンではなかった。



      >>20100513 ゲーム内では普通の敵として倒していましたが、こういう葛藤はあったのではないかと。



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